日々の生活のなかでちょっと気になる出来事やニュースを、2人の女性医師が医療や健康の面から解説するコラム「ちょっとだけ医見手帖」。今回は、自身も1児の母である森田麻里子医師が、授乳中のアルコール摂取について「医見」します。
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ビールがおいしい季節ですが、妊娠中から授乳中にかけて、頑張ってお酒を控えていらっしゃるお母さんは多いと思います。特に授乳中のアルコールについては、「できれば避けたほうが良い」「このくらいなら大丈夫」など様々な意見があるので、混乱している人もいらっしゃるかもしれません。
授乳中のお母さんがアルコールを多量に摂取すると、赤ちゃんが傾眠になったり、ホルモンバランスが崩れたりする可能性があります。しかしこれまでの研究では、アルコールを多量に摂取するお母さんの子どもが、長期的にどのような影響を受けるかはわかっていません。また、授乳中のアルコールが赤ちゃんの発達に与える影響については、影響がある・ないの両方の結果が出ています。
そこで、今月になって新しく、授乳中のアルコール摂取と子どもの認知能力についての研究結果がオーストラリアの研究者によって発表されましたので、ご紹介しましょう。
この研究では、5107人の赤ちゃんを、2004年から2年毎に追跡した結果を解析しています。その結果、お母さんのアルコール摂取量が増えるほど、6~7歳になったときの非言語的推理力(複数の図形から法則性を見つけて穴埋めする問題)の点数が下がっていることがわかりました。
この研究では、お母さんのアルコール摂取量をアンケート形式でスコアリングしています。お酒を「去年は飲んでいない」「月に1回以下」のように、頻繁に飲んでいるわけではなくても、「全く飲んでいない」人に比べて1点ずつ点数が上がるようになっています。つまり、たまに・ときどきお酒を飲む、という場合でも、飲酒による赤ちゃんへの影響が全くないわけではない、ということです。
それでは、実際どのくらいの影響があったのでしょうか? 6~7歳時点での非言語的推理力の点数の中央値は14点でしたが、アルコール摂取量のスコアが1点増えると、非言語的推理力のスコアが0.11点下がる、という結果になっています。さらに、その影響は10~11歳時点では消失しています。授乳中にアルコールを飲めば、少量であっても赤ちゃんに影響する可能性がありますが、「少しでも飲んだら大変なことになる」というわけではありません。