今すぐ動くというわけではないが、早い段階から4選の憶測をプレスに流し、雰囲気を醸し出す。そのうえで、来年の改憲達成の暁には、「これだけの歴史的偉業を成し遂げた総裁を決まりだからと言ってクビにするのはいかがなものか」という議論を展開。消費税増税前に一気に4選可能な党則改正に持って行くか、あるいは、議論を続けて、20年の五輪パラリンピック開催の余韻を使って、改正するか。最悪改正が実現しなくても、その可能性があると思わせている間は、レームダック化に歯止めがかかる。
もちろん、その間、安倍氏自身は、総裁選ルールは党で議論すべきことだという立場を堅持し、予定通り退任して岸田氏に禅譲というオプションもちらつかせることで、岸田派の支持を確保し続けるということもやるだろう。
■野望は膨らみ総理から安倍皇帝へ?
これまでの議論に対して、そこまでうまく行くはずがないと思う人も多いだろうが、これまでの安倍氏の強運を考えると、あながち荒唐無稽な話ではないと考えた方が良い気がしてくる。
安倍総理の野望は、拙著『国家の暴走』(2014年、角川新書)で指摘したとおり、日本を平和国家から、米ロ中のような「列強国家」に変えることだ。そして、その列強のリーダーとして、軍事力を背景に世界秩序に影響力を行使する。それが夢なのではないか。
その夢を果たすためには、憲法9条改正だけでは全く足りない。極東では中国の習近平、ロシアのプーチン、北朝鮮の金正恩らが、国内での独裁体制を基盤にして、国際社会に大きな影響力を行使している。仲良しのトルコのエルドアン大統領も憲法改正して権限を強化した。一方の安倍総理は、国内では1強体制を築いたが、北朝鮮問題一つとっても国際的舞台では蚊帳の外だ。とても、列強国のリーダーになったとは言えない。
そうなるためには、緊急事態条項や基本的人権の制限などのより踏み込んだ憲法改変が必要だ。それを基にして、国民生活を犠牲にできる体制を作り、軍事力を飛躍的に強化するには、さらに10年単位の時間が必要になるだろう。21年までの総裁任期を4選後の24年まで延ばしても十分ではない。
総裁4選規定の廃止の際には、「初の改憲を実現し、オリンピックを成功させた総理」としての実績をアピールして、一気に、多選禁止規定そのものの廃止も議論される可能性がある。終身総裁も視野に入れた規定になるかもしれない。
もちろん、国内では持てる権力は無制限に行使し、自民党はもとより、野党もマスコミも経団連も支配して1強体制を強化する。その先に見えるのは、終身制の独裁者、「皇帝」への道だ。
そんな恐ろしいことにならないうちに、この野望を止めることができるのは誰なのか。
そう自問しても、すぐには答えが見つからない。
日本の民主主義は、本当に瀬戸際に立たされている。(文/古賀茂明)