相模原市の障害者施設「津久井やまゆり園」で入所者19人が殺害された事件から2年が経った。殺人などの罪で起訴された元職員の植松聖被告(28)は、「重度の障害者は安楽死させた方がいい」という独善的な主張を持ち、凶行に及んだ。逮捕後もこの持論は何も変わっていない。
そのなかで今月、植松被告の手記やマンガなどをまとめた『開けられたパンドラの箱』が創出版より発売された。手記については同社の月刊誌「創」にすでに掲載されていたが、一冊の本となって出版されたことに批判の声も上がっている。
なぜ、差別主義者で大量殺人犯の手記を本にまとめたのか。篠田博之編集長(66)にその理由を聞いた。
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──殺人犯の手記といえば2016年4月、神戸連続児童殺傷事件の犯人が「元少年A」の名前で出版した『絶歌』(太田出版)があります。本がベストセラーになったことで「出版の自由」をめぐって大きな議論になりました。
まず前提として、「元少年A」の『絶歌』はある種の作品として書かれたもので、被害者感情への配慮といったことはほとんどなされていない本です。それに対して『開けられたパンドラの箱』は事件を解明するという報道のスタンスに立った本で、植松被告の発言はその素材のひとつなのです。ただ、彼の発言や主張がまとまった形で世に出るのは初めてなので、いろいろな議論を巻き起こしているわけですね。
ただ誤解している人もいるのですが、植松被告の発言や手記は3部構成の第1部だけで、しかも彼の主張をそのまま掲載しているのではなく批判的に検証しています。また、本では植松被告の主張に対して、事件の被害者家族や障害者家族などの批判や、精神科医による分析なども掲載しており、事件を多角的に検証したものなんです。
私自身も20回ほど植松被告と面会していますので、そこで本人に聞いた事件の経過も掲載しました。あの事件の詳細はほとんど明らかになっていませんでしたから、その取材で初めてわかったこともたくさんありました。
──批判が起きることは覚悟していたのでしょうか。