通算119勝を誇り、今年も7月17日時点でパ・リーグトップの防御率をマークしている岸孝之の出身校は名取北(宮城)。甲子園も東北大会も出場歴のない一般的な県立高校であり、岸自身も進学を決めた理由として自宅から近かったことと、坊主ではなかったことが理由だと語っている。野球も高校までと考えていたが、3年夏の初戦で5回コールドながらノーヒット・ノーランを達成。そこで東北学院大の監督の目に留まったことで進学が決まり、大学で大きく飛躍することとなった。もし最後の夏のノーヒット・ノーランがなければパ・リーグを代表するエースは誕生していなかったかもしれない。

 岸と似たような経緯で大学を経てプロ入りしたのが、一昨年のパ・リーグ新人王で、今年もローテーションの一角として活躍している高梨裕稔(日本ハム)だ。高梨の出身校は千葉県立の土気。激戦区千葉にあっても目立った実績のある学校ではなく、高梨も高校から本格的に投手に転向している。そして高校3年夏の3回戦で県内屈指の強豪校である木更津総合と対戦。土気はわずか1安打に抑えられて0-5で敗戦し、高梨の高校野球も終わりを告げたが、この試合を見ていた山梨学院大の伊藤彰コーチ(元ヤクルト)の目に留まり進学することとなったのだ。大学では2年春から主戦として活躍し、2013年のドラフト4位で日本ハムに入団。プロ入り後2年間は体力作りに費やしたが、3年目以降は先述の通り先発陣の一角として活躍を見せている。

 野手は投手に比べて少ないが、現在売り出し中の田中和基(楽天)は福岡県の私学の名門である西南学院出身である。しかし名門と言っても、それは学力の方であり、多くの著名人を輩出している中でプロ野球選手は田中だけである。田中は高校時代、両打ちの捕手として活躍していたが、3年夏の福岡大会では3回戦で敗退し、目立った実績は残していない。しかし、全国の野球名門校から選手が集まる立教大でも高い運動能力を生かして2年秋にはレギュラーを獲得し、2016年のドラフト3位で見事プロ入りを果たした。左右どちらの打席でもフルスイングする破天荒なスタイルは野球名門校出身ではないことが影響しているのではないだろうか。

 今回はリーグを代表する選手を中心に紹介したが、他にもまだまだ無名校出身のプロ野球選手は多数存在している。このような事象が起こるのは、チームスポーツでありながら個人技に比重が置かれる部分が大きい野球ならではの特徴と言えるのではないだろうか。今年の地方大会でも、将来プロを代表するような選手に成長するダイヤの原石が無名校に潜んでいることも十分に考えられるだろう。(文・西尾典文)

●プロフィール
西尾典文
1979年生まれ。愛知県出身。筑波大学大学院で野球の動作解析について研究。主に高校野球、大学野球、社会人野球を中心に年間300試合以上を現場で取材し、執筆活動を行っている。

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西尾典文

西尾典文

西尾典文/1979年生まれ。愛知県出身。筑波大学大学院で野球の動作解析について研究し、在学中から専門誌に寄稿を開始。修了後も主に高校野球、大学野球、社会人野球を中心に年間400試合以上を現場で取材し、AERA dot.、デイリー新潮、FRIDAYデジタル、スポーツナビ、BASEBALL KING、THE DIGEST、REAL SPORTSなどに記事を寄稿中。2017年からはスカイAのドラフト中継でも解説を務めている。ドラフト情報を発信する「プロアマ野球研究所(PABBlab)」でも毎日記事を配信中。

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