5.5組に1組の夫婦が受けたことがあるという不妊治療。しかし仕事との両立に悩み、働き方を変えざるを得なかった人が4割、そのうち約半数が「退職」に追い込まれているという現実が明らかになった。予定の立たない頻繁な通院、治療による体調不良……10年間に及ぶ不妊治療の末、職場の誰にも相談できずに退職した女性は、何を思っていたのか。マタハラNet創設者の小酒部さやかさんが、妊娠前に起きるプレ・マタハラの実態を取材した。
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広田みのりさん(仮名、53歳)が不妊治療を始めたのは37歳のころだった。
妊娠を希望し、産婦人科で半年間タイミング法を行ったが妊娠に至らず、不妊専門病院に行き検査をすると、そこでホルモン値の異常と子宮内膜のポリープが見つかった。タイミングを合わせればすぐに妊娠すると思い込んでいたが、最初に検査をすればよかったと後悔した。
小学校の教諭という仕事柄、担任のクラスを持つとすぐに配置換えはしてもらえない。運良くこの時は担任を持っておらず補助の仕事をしていたため、ポリープ手術時に病休を2週間取った。しかし、職場に不妊治療を希望していることは言えなかったという。
「自然妊娠でさえ、担任クラスを持っているなら、4月から休みに入り翌年の4月に復帰するように妊娠すべきという風潮がありました。そんな職場で不妊治療について理解してもらえるとは思えませんでした」
その後、人工授精を何度か行ったが妊娠せず、体外受精のステージに進むタイミングで仕事を辞めた。できれば仕事と両立したかったが、次のステージの体外受精は、頻繁に病院に通わなければならず、両立は難しいと感じたからだ。そして何より、最後まで職場に治療のことを言い出すことが出来なかった。
妊娠前たとえば妊活中や不妊治療中など、子どもが欲しいと願っている時期の嫌がらせや妊娠の妨げ行為は、"プレ・マタニティハラスメント(プレ・マタハラ)"と呼ばれている。