私が佐藤さんに注目した最初のドラマは、「黒い十人の女」(2016年)だった。テレビ局のプロデューサー(船越英一郎)には妻の他に9人の愛人がいるという設定で、佐藤さんは2番目に歴史のある愛人でアシスタントプロデューサーという役どころだった。

「年若い愛人」を追い落とそうと画策した挙句に失敗、「あのババア、仕事が雑だからな」などと陰口される。プロデューサーに「他の愛人を切って」と迫るつもりが、逆に別れを切り出され、「他の人を切らないでいいから、私と別れないでー」と鼻水を垂らして泣く。そんな役だった。

 メガネをかけ、仕事できそうな美人。でも体型はぽっちゃり。その落差がぴったりで、あのドラマにハマった私の周囲の女子からは、人気ナンバーワンだった。

NHK朝ドラ「ひよっこ」では、主人公みね子(有村架純)が働く赤坂の洋食店のホール係の先輩役だった。一見お局さま風だが、みね子を面接した日、怖そうな顔から一転、「オッケー」とおどけたポーズでにっこり笑った。これまた落差。

 みね子の同級生の兄からプロポーズされ、「はい、お嫁に行きます」と、とてつもなくでっかい字の返事を墨で書き、りんご農家に嫁いだ。気の強い姑(柴田理恵)にもひるまず、「あの嫁は、おもしれー。気に入ってんだ」と言わせる。

 どちらの役も、佐藤さんという存在、つまり「顔きれい、演技力あり、でも体重多め」を前提に書かれたであろう感じがして、感心していた。「黒い十人の女」の脚本はバカリズム、「ひよっこ」は岡田惠和。腕利きの脚本家に愛されるのは、「顔きれい、演技力あり、でも体重多め」という「落差」だったと思うのだ。

 あー、それなのに、佐藤さんは痩せてしまった。「顔きれい、演技力あり、体重少なめ」になってしまった。「でも」なし、落差なし。

 ああ佐藤さん、やっぱり痩せない方が、よかったんじゃないかなあ。(矢部万紀子

著者プロフィールを見る
矢部万紀子

矢部万紀子

矢部万紀子(やべまきこ)/1961年三重県生まれ/横浜育ち。コラムニスト。1983年朝日新聞社に入社、宇都宮支局、学芸部を経て「AERA」、経済部、「週刊朝日」に所属。週刊朝日で担当した松本人志著『遺書』『松本』がミリオンセラーに。「AERA」編集長代理、書籍編集部長をつとめ、2011年退社。同年シニア女性誌「いきいき(現「ハルメク」)」編集長に。2017年に(株)ハルメクを退社、フリーに。著書に『朝ドラには働く女子の本音が詰まってる』『美智子さまという奇跡』『雅子さまの笑顔』。

矢部万紀子の記事一覧はこちら