「ポルトガルに住んでいた頃のこと。近所に近代的な文房具屋ができたんだけれど、誰も行かなくてつぶれちゃった。代わりに昔からある古い店が繁盛してるんです。新しい店が信用されないんですね」
そう語るのは、漫画家のヤマザキマリさん。ヤマザキさんは大ヒット漫画『テルマエ・ロマエ』の作者。その作品は、油絵専攻らしい確かな画力と、歴史についての該博な知識が高く評価されている。そんなヤマザキさんに、累計8万部突破『エリア別だから流れがつながる 世界史』の特装版の装画を依頼。カバー表にマリ=アントワネットとカエサルを描いてもらい、カバー裏は外国暮らしで感じる「日欧の文化の違い」や「歴史」に関するインタビューを掲載。
今回は、カバー裏に掲載しきれなかったお話をご紹介する。
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「ヨーロッパに住んでいると歴史的な事件が、まるで最近の出来事のように感じられます。例えば、16世紀末にキリシタンの少年たちが日本からローマへ派遣された天正遣欧使節団。彼らの通過した国々に住んでいた頃、その痕跡を至る所で感じました。地元の小さな教会を訪ねたとき、壁に彼らの姿が描かれていたり、『あんた日本人かい? 以前ここに日本人が来てあのオルガンを弾いたんだよ』と話しかけられて、よくよく確認すると使節団のことだったり。そういうなかで暮らして、築500~600年の家に住んでいると、歴史に組み込まれているのが当たり前で、特別なことだとは全く感じなくなるんです」
そんなヤマザキさんが一番感動したのは、レバノンのバールベックやシリアのパルミラなど、地中海東部の古代ローマ遺跡を初めて見たときだそう。
「とても壮麗で、しかも、最盛期の様子が想像できる状態で残っているんですね。それでいて、遊牧民が住みついていて、洗濯物を干していたりするんです。『おれの家になぜ来た?』と言われましたよ。彼らはそこを長年、普通に住居としてきたんですよね。歴史性がそんなふうに感じられる点も素晴らしい。パルミラはその後、シリア内戦で破壊されてしまいましたが……」
古代ローマは建築のレベルだけでなく、生活水準も高かった。浴場が整備され人々に利用されていたようすは『テルマエ・ロマエ』にも詳しく描かれている。が、ヤマザキさんが古代ローマに引かれるのは「食いしん坊だから」でもあるとのこと。