それは悪かったと、相手は軽く話を合わせてくるかと思ったが、違った。キョトンとした表情を浮かべ、「お前、その女性と結婚するんやろう?」と尋ねてきた。ええ、そのつもりですが。そう答えると、さらに不思議そうな顔になって言った。「だったら、いいやないか」
「なるほど、こういう人なのか」とその瞬間、腹にすとんと落ちた。人情味がないといったことではない。政治家として人間関係をどう判断するか。ふだん活動の奥底にある考え方がわかったのだ。
そのころ彼は、党内の議員を1人、また1人と派閥に入れているところだった。相手は、郵政民営化に反対して小泉純一郎首相から党を追い出され、後継の安倍晋三首相が復党させたいわゆる「復党組」だ。
生半可な打算は、同じことを選挙区内や永田町で繰り返してきただろう相手には透けて見える。恩義ある首相と敵対関係にある政治家に身を寄せていいか。慎重になる彼らを引き込むのは、簡単ではなかったはずだ。
1人に見通しが立ったら次へ。そしてまた次へ。力の源泉たる「数」を集めていた彼にとって「結婚するんやろう? だったら、いいやないか」は、実感そのものだったのだ。
彼がいい人かといわれれば首を縦には振れない。だが、いきなり北朝鮮に飛ぶといった、はた目に理解されにくい行動を繰り返す姿は、時に滑稽であり、政治家が本気になることのすごみも感じさせられた。
政治家の評価では、何を目指しているかももちろん大切だ。だが、その実現に全力を尽くしているかに私がつい力点を置いてしまうのは、文字どおり「あの手この手」を繰り出すこの人物と初めに時間をかけて付き合ったせいだろう。
そこに病気が拍車をかけた。治療では目標は初めからはっきりしている。肝心なのは、それに全力を尽くすかどうかだ。
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先月30日、1年半ぶりに開かれた党首討論を見た。
党首討論に先立ち、野党第1党である立憲民主党の枝野幸男代表は「実のある議論にはなり得ない」と語っていた。確かに、安倍晋三首相を追及する場としては持ち時間は短い。