深めに守っていた名手・山下大輔が猛ダッシュで打球を処理し、素早く一塁に送球。有田も懸命のヘッドスライディングを敢行し、際どいタイミングになったが、松橋登一塁塁審の判定は「セーフ!」。この間に三塁走者・吉村禎章が勝ち越しのホームを踏んだ。

 しかし、話はこれだけでは終わらなかった。判定に激高したファースト・ポンセが、こともあろうにボールの入ったミットを放り投げ、口角泡を飛ばして抗議している間に、一塁走者・岡崎郁までホームインしてしまった。

 有田の体を張ったプレーは多くのファンを感動させ、試合は巨人が3対1で勝った。広島と激しいV争いの渦中の王貞治監督も「あの気迫はウチの選手になかったもの。今日はオレが勉強させてもらった」と36歳のベテランの技ありプレーを絶賛した。

「(セーフティースクイズは)サードがだいぶ下がっていたんで、うまくいくかな」と咄嗟に閃いたそうだが、実は、有田は近鉄時代の84年にもロッテ戦で成功させ、サード・落合博満を「参りました」と脱帽させている。

●プロフィール
久保田龍雄
1960年生まれ。東京都出身。中央大学文学部卒業後、地方紙の記者を経て独立。プロアマ問わず野球を中心に執筆活動を展開している。きめの細かいデータと史実に基づいた考察には定評がある。

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