翌日、派手なアロハシャツで海にナンパに繰り出していった彼らの笑顔に、ほっとすると同時に、前夜の死んだ表情を思い出した。
いま振り返って何がおそろしいかといえば、上級生たちがあくまで「紳士的」だったことだ。殴る蹴るの暴力どころか、声を荒らげていた記憶すらない。私が見た範囲では、ただ「ここではそうするものだ」という雰囲気をつくっただけなのに、1年生たちは誰ひとり反抗せず、言われたことに最後まで黙って従い続けた。
あの夜、「日本でまた戦争をしようと思ったら簡単だな」と、友人に言ったことを覚えている。あるいは「日本人に戦争をさせるのは簡単だ」だったかもしれない。今もその確信は変わらない。その私もまた、周りの雰囲気を壊さないように役割を守り、表情が死んだ集団を見ても「やめよう」と声を上げなかった1人なのだ。
あれから20年以上たった。国会では責任ある立場の公務員たちが本心をのみ込んだような答弁をしている。
何をそんなに恐れているんだ。そう思うたびに、もうひとりの自分が問いかけてくる気がする。そんなことを言う資格がお前にあるのか? と。