つい熱くなり、長くなってしまった。かつて三谷幸喜脚本で、元SMAPの香取慎吾が出演した「合言葉は勇気」というドラマがあった。そう、大切なのは周りとぶつかる勇気だ。
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私には、勇気を出さずに沈黙した苦い思い出がある。
大学4年生の時のことだ。運動系の団体に所属する友人に誘われ、大学の宿泊施設に行った。
到着すると、彼の同級生に頼まれた。「1年生をだまします。クイズ大会では金をバンバン張って、どんどん答えてください。早押しボタンを押せば、ぜんぶ正解にします。金はお渡ししますから」
夜、問題のクイズ大会が始まった。
4人ほどに分かれたグループで、上級生たちは「じゃ、おれ1万」「おれも」と、あらかじめ渡されていた札を財布から切っていく。早押しボタンを押せば司会役が「正解」と判定するから、上級生の手元には札がみるみる集まった。
1年生は「おかしい」とすぐ気づいたはずである。なんと答えてもすべて不正解になるのだから。すぐに「もう金がありません」と青ざめた。それでも抜けさせてはもらえず、キャッシュカード、時計、メガネと、次々に巻き上げられていった。
クイズの途中で、上半身裸の1年生が上級生に連れられてきた。おなかに顔が描かれている。「皆さんを笑わせて」と言われて2、3度、ぐにゃぐにゃと、腹踊りのように身をよじったが、笑えるはずもない。「笑いは悲しみの中にある」と私が言うと、上級生は「なるほど」とペンのキャップを開け、リキテンスタインのポップアートのような涙を目の辺りに描き加えた。再び、ぐにゃぐにゃ。表情の死んだ1年生は最後までひと言も発しなかった。
そうして2、3時間はだましただろうか。すっかり表情を失い、死んだ魚のように目をどろんとさせた1年生たちに、上級生が種明かしをした。
よかった――という歓声は上がらなかった。うっかり信じたら、もっとひどい目にあわされるのではと、黙り込んでいた。ようやく彼らに笑顔が戻り始めたのは、巻き上げられていた金や品物が返されてからだ。