椅子は横長のものに詰めて譲り合って座るので、はじめて会う隣の人と話が盛り上がることもある。だが興に乗って大声で歌うのは禁止。ケータイの通話も当然禁止。このあたりは他の店にもありそうなルールだ。
他の客と話すのはいいが、酒のやりとりをしてはいけないというのが『兵六』ならではのルール。また、日本酒にルールはないが、焼酎はひとり3杯までと決められている。『兵六』では乱れずに呑みましょうということのようだ。
お酒の出し方も基本的に創業当時から変わっていない。
日本酒は熊本の「美少年」。こちらは燗か常温で。ビールは瓶のみ。
焼酎は米と芋があり、この呑み方が『兵六』オリジナル。米の球磨焼酎「峰の露」は冷凍庫で冷やされたトロッとしたものをストレートで。芋は薩摩の「さつま無双」で、こちらは燗での提供。徳利とお猪口、お湯が入った小さなヤカンが出される。好みの濃さに割りながら呑めるわけだ。このヤカンだけは創業から遅れて30~40年前にはじまったものだという。はじめて来た時は徳利とお猪口がカウンターに並ぶ光景を見て、「日本酒を呑む人が多いんだな」と思ったが違った。芋焼酎を呑む人が多かったのだ。
また、これも他の店にもあるルールだが、酒場なので食べものから注文するのはNG。まずは何を呑むか、だ。さらに初代の時代、日本酒を頼んだある人が一郎さんに、「いくつなんだ!?」と言われたことがあるという。「何本だ?」ということらしい。まあ、普通は1本だけども。それが、「店主が怖い」という伝説を生んでしまったのかもしれない。昔からの常連が、いまだに「無双1本ください」と注文するのはその名残だという。
壁のメニューも一部は創業から変わっていない。「餃子」「炒豆腐(チャーどうふ)」「兵六あげ」が人気だ。呑んでいる席からの光景が70年前とほぼ変わっていないのは嬉しい驚き。これからは「無双1本ください」と注文しようと思う。
■兵六
住所:東京都千代田区神田神保町1-3-20
TEL:なし
営業時間:17~22時半/土日祝休
アクセス:東京メトロ・都営地下鉄「神保町」駅より徒歩約3分