本の街、神保町の大型書店「三省堂」横の角地
本の街、神保町の大型書店「三省堂」横の角地
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「店主が怖い」という噂がある神保町の酒場『兵六(ひょうろく)』。だが行ってみればその噂が間違いだということがわかる。コの字型カウンター(正確にはコではないが)のなかで客を捌いているのは、若旦那と言ってもいい年齢の柴山真人さん。真人さんは「怖い」とは程遠い優しい対応をしてくれる。

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 店は1948年くらいに創業している。真人さんはおよそ3代目。“~くらい”や“およそ~”が付いてしまうのにはワケがある。

 創業者の平山一郎さんは、真人さんの伯父さんにあたる。一郎さんが1988年に亡くなり、一郎さんの長男が店を継いだが、数年後に若くして他界してしまう。その後店は、親戚や知り合いの力で営業を続けた。真人さんも最初は週1日店を手伝う程度だったが、5年ほど経った頃にはほぼ毎日、真人さんが店に入るようになり、そのまま現在に至っているという。

 2代目が亡くなったあとから真人さんの時代になる前に、複数人で店を守っていた時代があったので、真人さんは3.5代目といったところか。「なんとなくいつの間にか継いでいました」と真人さんは話す。

 創業年があやふやなのも、上記のような引き継がれ方をしているため、はっきりとした年数を知る者がいないから。しかし、店内に25周年を祝して贈られた書が飾られていて、それをいただいた年から逆算すると、どうやら1948年創業となるらしい。「金声玉振(きんせいぎょくしん)」と書かれたその額以外にも、店内にはさまざまな書が飾られている。

 実は初代店主の一郎さんは戦前、上海へ留学しており、そのころに、いまだに日本でも人気が高い、作家で思想家の魯迅と交流を持っていたという。飾られている書は魯迅の書ではなく、当時の御学友のものだが、魯迅本人の写真も飾られている。

 壁の額縁類を真人さんはいっさい変えていないという。初代が掲げたままということだ。そして、店のルールも初代からのものを守っている。

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