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もはや、ソフトバンク・甲斐拓也の強肩は“球団公認”となった。
「KAI CANNON」
本拠地・ヤフオクドームで、捕手の甲斐が相手の盗塁を刺す。そのとき、センター後方のオーロラビジョンに、キャッチャーマスクをかぶった甲斐の姿とともに、この文字が躍るようになったのは今年4月からのことだった。
スクリーン5面で構成される巨大な映像は、縦は最大10メートル、横は計185メートル。まさしく“大砲”にふさわしい迫力だ。球団はこれまで、投手が三振を奪ったときや、リリーフ投手の登場時、攻撃でのチャンス時などに演出用の映像や画面を設定することはあったが、甲斐の「肩」のように「個人のプレー」に特化した演出を行うのは初めてのケースだという。
その強肩ぶりを物語るデータを精査してみよう。
昨季、シーズンの約70%にあたる「100試合」以上に出場したパ・リーグの捕手は甲斐を含め4人。それぞれの「盗塁阻止率」を、まず比べてみたい。
千葉ロッテ・田村龍弘 .337
埼玉西武・炭谷銀仁朗 .327
ソフトバンク・甲斐拓也 .324
東北楽天・嶋基宏 .289
甲斐の数字がそれほど良くないのに、強肩を売り物にするのはおかしい? むしろ、そんな疑問が浮かんでくる。そこで、この盗塁阻止率のデータをもっと詳しく掘り下げてみよう。
「盗塁刺」を「盗塁企図数」で割ったものが「盗塁阻止率」だ。その企図数に実は、大きなカギがある。
田村 出場試合数130試合 企図83 盗塁刺28
炭谷 出場試合数104試合 企図49 盗塁刺16
甲斐 出場試合数102試合 企図34 盗塁刺11
嶋 出場試合数112試合 企図90 盗塁刺26
この数字から導き出される結論は、こうなる。甲斐が捕手だと、相手はなかなか走らない--。
盗塁を阻止するのは「投手と捕手の共同作業」というのが野球界のいわば、常識でもある。セットポジションからモーションを起こし、投球が捕手のミットに収まるまでの目処は「1.2秒」。それより遅い場合は、盗塁を許す確率が格段に上がると言われる。