

「信玄公祭り」「武田勝頼公まつり」「武田二十四将騎馬行列」など、「武田一族」にまつわる催事が集中する山梨県甲府市の四月は、今年も戦国時代ムード一色に包まれた。
武田信玄の父信虎が「躑躅ヶ崎館」(つつじがさきやかた/現在の武田神社)を構え“甲斐の府中”であることから『甲府』と命名された街が作られたのは、今から500年前の1519年のこと。それから約60年、武田家三代(信虎、信玄、勝頼)は大名として甲府を治めた。
1988(昭和63)年の大河ドラマ第26作「武田信玄」ではその甲府を舞台に、武田信玄の生涯が描かれた。地方大名の伊達政宗を主人公にした前作「独眼竜政宗」と同じ結構の大河だが、39.2パーセントの平均視聴率は「独眼竜政宗」にわずか0.5パーセント及ばないだけの、大河歴代視聴率第二位の記録を誇っている
原作は新田次郎の「武田信玄」で1965年から1973年まで「歴史読本」に連載され、翌年、文春文庫で刊行された。井上靖の「風林火山」と双璧を成す“武田戦記小説”だが、濃霧の流れを勝負のアヤととらえた川中島の合戦、山深い甲斐・信濃の優れた地形描写は山岳小説を得意とした筆者ならではの趣を感じさせる。
中井貴一さんが26歳の若さで、信玄の青年期から生涯を終えるまでを演じた。ちなみに、大河第一作「花の生涯」は、中井さんの父君佐田啓二氏が主演している。中井さんは当時のことを次のように語る。
「『武田信玄』は大河26作目なのですが、綺羅星のごとく素晴らしい俳優さんが出てきた中で、26名しか主役を演じた人はいないわけですよね。その最初を父がやり、26本目に話をもらったということだけで光栄な気がしました。しかも、父は山梨の韮崎で亡くなっているのですが、その父が亡くなった土地を支配した武田信玄という役が僕のところに来たというのも大きな因縁だと考え、お引き受けしました。」
その「武田信玄」では過去25作品の大河では試みられなかった制作方法が採られた。山梨県小淵沢町に大規模な武田館のオープンセットを建設したのだ。小淵沢町がNHKに、「オープンセットを建設して観光名所にしたい」と申し出たことから実現し、八ヶ岳を仰ぎ見る一万平方メートルの敷地内に建てられた壮大な武田館には、多くの観光客が押し寄せた。「武田信玄」は、地方の振興策とNHKのドラマ制作の提携が定着した最初の大河となったのだ。甲府市はそのノウハウを46作目の「風林火山」でも生かし、フィルムコミッションの先駆となった。