大河ドラマが60年ちかくも生き延びてこられたのは、「温故知新」の精神を大切にしたからだ。大掛かりなオープンセット建設のアイデアは、31作目「琉球の風」の読谷村に作られた琉球王朝、32作目「炎立つ」の岩手県江刺の藤原の郷へと引き継がれた。「花の生涯」の主演が佐田啓二さん、「武田信玄」の主演が息子の中井貴一さんへと繋がったのも、「温故知新」の目には見えない大河の流れによるものかもしれない。
大河の長い歴史について中井さんはこう語る。
「僕はこの『武田信玄』からたくさんのことを教えられました。それは先輩やスタッフから教わったこと、武田信玄自身からおそわったことなど語りつくせないほどありますね。あれから30年という時間が流れ段々に分かったのは、時代劇は役者の世界で唯一、継承されるべきものだということです。先輩が後輩に教え、後輩がまたその後輩に教えていく。それは、役者だけじゃなくてスタッフも同じです。時代劇が無くなったら、その瞬間にその文化も消える。ゼロから新たに立ち上げるのは不可能です。脈々と続いていることに意義があるんです」
映画「四十七人の刺客」「壬生義士伝」「次郎長三国志」「柘榴坂の仇討」、テレビ「立花登 青春手控え」、大河「八代将軍吉宗」「武蔵 MUSASHI」「義経」「平清盛」など、現代のトップスターとしては珍しく時代劇が多い中井さんは、時代劇に対して特別な思いを抱いている。
「映画やテレビから時代劇が消え、衰退がささやかれるようになった時、継承しようと思ったんです。あまのじゃくですから。僕らの世代が次の世代に残さなきゃいけないものがある。バトンを受け取る立場から渡す立場になった時、『お前ら、次の世代に渡してくれよ』という先輩たちの声が聞こえたような気がしたんですよ」
映画やテレビの時代劇は、中井さんのような問題意識をもっているスターに支えられているのだと痛感する。(植草信和)

