芸人としてまともに修行を積んだ経験もないただの「ド素人」にすぎないとんねるずが生き馬の目を抜く芸能界で出世街道を駆け上がっていくためには、石橋の「ハッタリをかます力」が欠かせなかったのだ。石橋はテレビの中で自信満々に傍若無人に振る舞い、既存の権威を片っ端から破壊していった。

 一方、木梨は、同じ「壊し屋」でも、石橋貴明のように偉そうにしたり強引に前に出たりせず、鮮やかにスマートに壊すのを信条としている。木梨は器用な芸人である。圧倒的な身体能力と芸術的センスを生かして、歌、ものまね、演技、創作活動など多方面に活動を展開している。

 その有り余る才能は、バラエティ番組では予想外のハプニングを引き起こすための「飛び道具」として機能している。コントやロケでも、ここぞという場面で絶妙の間合いで共演するスタッフに蹴りを入れたり、後輩芸人を池に叩き落としたりする。アドリブで好き放題に暴れるときの破壊力では、木梨は石橋にも引けを取らない。しかし、その動きや間合いがあまりにも絶妙なため、見る側に嫌な印象を与えないのだ。

 先述した鶴瓶とのやり取りでも見られるように、予定調和的な演出を嫌い、その場で新しいことをどんどん仕掛けていくというのが木梨の流儀だ。番組を面白くするために壊しているというのが伝わってくるから、木梨にいたずらを仕掛けられた人は誰もが笑って許してしまう。コンビとしての冠番組は終わってしまったが、それをきっかけに木梨憲武という個人はその持ち味を発揮して、ますます魅力を増している。(ラリー遠田)

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ラリー遠田

ラリー遠田

ラリー遠田(らりー・とおだ)/作家・お笑い評論家。お笑いやテレビに関する評論、執筆、イベント企画などを手掛ける。『イロモンガール』(白泉社)の漫画原作、『教養としての平成お笑い史』(ディスカヴァー携書)、『とんねるずと「めちゃイケ」の終わり<ポスト平成>のテレビバラエティ論』 (イースト新書)など著書多数。近著は『お笑い世代論 ドリフから霜降り明星まで』(光文社新書)。http://owa-writer.com/

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