「劇的によくしようという目的ではなく、まずはよい睡眠をとるための技術を学ぶこと、自分の睡眠に関心を持ってもらいスタートラインに立つことを目標にしています」(村上さん)
同社の場合、シフトや職種で仮眠時間も異なるため、事前にヒアリングを行い実態に即した形で過ごし方のポイントなどを作ってもらったという。
例えばシフトによって5時起きの日と9時起きの日が混在してしまうような人もいるが、睡眠の質を上げるには起床時間を一定にすることが大事だという。長く寝たいときは、一度起きて日の光を浴びてから、もう一度寝るのがいいそう。
■あっさり改善できる
こうして学んだ技術を実行することで、自分の睡眠が改善した効果を感じた人は多かったという。さらにプログラム前後での生産性を比較する調査でも、【仕事中に高い集中力を維持できている】【タスクを正確かつ丁寧に実施できている】【些細(ささい)なことでイライラせずに気持ちに余裕がある】などの項目で大きく改善が見られた。
「技術を学ぶと睡眠って結構あっさり改善できるんだなと感じました。もともと生産性のために行った取り組みではなく健康とメンタル不調の予防が目的ですが、副産物として生産性にもいいことがデータとして表れました」(同)
組織として取り組む意義について、村上さんはこう話す。
「残業時間を減らすなど、業務を改善しないことにはよい睡眠が実現できない、という気づきもあったようです。自分の睡眠だけでなく、業務のことにまで意識が向いたのも、組織で取り組んだ意味があったと思います」
米シンクタンクの調査で睡眠不足による日本の経済損失が年間15兆円と推計されるなど、「不眠大国日本」の深刻さは以前から指摘されていたが、最新の研究ではさらに、よく眠る会社ほど利益率がいい、という結果も明らかになっている。
昨年5月に発表された慶應義塾大学の山本勲教授の研究で、上場企業700社を対象に行った調査の結果、睡眠の時間と質を確保している企業ほど利益率が有意に向上していることが示されたのだ。