これだけではない。法案では、所有者不明の森林については、計画を公告して6カ月以内に異議がなければ、計画に同意したとみなし、市町村が管理できる規定もある。一度市町村に渡された管理権は、最大50年続く。また、「災害等防止措置命令」の制度を新設し、市町村は森林所有者に伐採などを命じることもできる。他の法律には見られない強大な権限を地方自治体に持たせる法案なのだ。
泉氏が指摘しているように憲法違反の可能性もあることから、法案の内容を内閣法制局が審査する段階では、林野庁との間で「かなり激しいやりとりがあった」(林野庁関係者)という。
反対する林業関係者は、現在の日本の林業が抱える問題が、この法案によってさらに悪化するのではとの懸念している。たとえば、ここ数年では伐期を迎えた木が増えてきたことで、森林の区画をすべて伐採する「皆伐」や、森林所有者が同意していないのに木材を勝手に伐採する「盗伐」が問題になっている。この状況下で市町村と林業事業者に大きな権限を与えると、違法伐採がさらに増える危険もあるのだ。
これに対して林野庁の渡辺毅林政部長は、こう訴える。
「今は、森林所有者と林業事業者が直接契約をしているので、市町村が伐採に介入することが難しい。それが、市町村が林業事業者と契約すれば、林業事業者を直接コントロールできるようになる。違法伐採をする林業事業者はすぐに契約を解除されることになるので、悪質な業者は消えていくはずです」
ただ、前出の泉氏はこう反論する。
「現実にはほとんどの市町村には林業を専門とする職員はいない。運用の段階で悪用されれば日本はハゲ山だらけになる危険性もある。また、林業事業者に造林を義務化しているが、それも会社が途中で倒産したり、自然災害や獣害などで造林に失敗したら、誰が責任を負うのかも不明確です。大量に木材が市場に供給されれば、木材価格がさらに下がるでしょう。林業事業者をさらに苦しめられることになりかねない」