そして、「とりあえず、もう1曲やってみようか」ということになり、大半はインターネットを介してのソングライティング・セッションからアルバム一枚分の曲を書き上げてしまった。実際のソングライティングは、たとえばシャギーが頭に浮かんだアイディアを歌って聞かせ、スティングがそこに新たな要素や歌詞を加えていく、あるいはその逆、といった形で進められていったようだ。楽しかったに違いない。結局、その楽しさや手応えが、二人を、本格的なアルバム制作プロジェクトへと向かわせたのだ。

 ジャマイカ音楽界の重鎮でボブ・ディランやローリング・ストーンズの活動にも貢献してきたベース奏者ロビー・シェイクスピアなど多くの実力派クリエイターたちの協力を得て完成させたアルバムに二人がつけたタイトルは、国際通話をかける際に使う英国とジャマイカの国番号を組みあわせた『44 / 876』。『ジョイント・ヴェンチャー』という案も有力だったそうだが、同タイトル曲に込められた「生まれも育ちも異なる僕たちが一つの作品をつくり上げたように、どの国も、どの国の出身の人も共通点を見出して、一つになるべき」というメッセージを強く打ち出す意味もあって、こちらに落ち着いたらしい。

 正解だと思う。『57th / 9th』からの流れもさり気なく打ち出していて、じつに洒落ている。ジャケットは、まるでかつてキングストンの街角で売られていた手づくりレコードのような感触に仕上げられていて、このセンスにも脱帽。あなたがスティングのマネージャーだったら、こんなデザインにOKしますか?

 全編から楽しさが伝わってくる。躍動的なビートと熱い風を感じさせるようなサウンドを耳にして、多くの人が「夏のアルバム」と受け止めるかもしれないが、もちろん、それだけではない。タイトル曲に関してちょっと書いたとおり、現代の社会状況に対する懸念や危機感、よりよい世界を希求する気持ちなどが、その深い部分から伝わってくる。とりわけ印象に残ったのが、「ドリーミング・イン・ザ・USA」。数えきれないほどの魅力的な文化を発信し、そして多くの人たちを暖かく迎え入れてきたアメリカに対する夢と憧れを追求する過程で大きな存在となった二人が、「その夢を打ち壊さないでほしい」、「アメリカには自由の篝火でありつづけてほしい」という気持ちを込めて歌う。

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