スティングのニューアルバム『44 / 876』は、レゲェ・アーティストのシャギーとコラボレーションした意欲的な作品だ。66歳になったスティングが、彼の原点ともいえるジャマイカ音楽の世界に回帰したのはなぜか。音楽ライターの大友博さんが解説する。
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昨年、2017年の6月、スティングは、前年発表のアルバム『ニューヨーク9番街57丁目』をメイン・テーマとしたワールド・ツアーの一環で日本を訪れている。
スティング自身があのプレシジョン・ベースを弾き、長年にわたる創作面でのパートナー、ドミニク・ミラーらがバックを固めたこのコンサートは、ひさびさにストレートなロック・ユニットを従えてのものということもあって大きな話題を集め、東京での武道館公演3回はいずれも超満員だったようだ。僕は初日を観ていて、同行した息子ジョー・サムナーを何度か日本語で紹介したことに関して「?」と感じはしたものの、パワフルでしかもさらに円熟味を増した演奏は文句なしの素晴らしさで、あらためて「すごい人」だなと思わされた。
基本的にはベスト・オブ・ベストといった選曲だったが、新作からも「気候変動なんてでっち上げ」という連中を皮肉った「ワン・ファイン・デイ」を取り上げ、きっちりと彼らしいメッセージを打ち出していく。終盤に歌った名曲「フラジャイル」は、この困難な時代に向けて、新たな意味を持つ歌として響いた。
10月まで好評のうちに各地を回ったこのツアーは間もなく再開されるようだが、その間隙を縫ってとでもいうべきか、66歳のアーティストから早くも新しいアルバムが届けられた。しかも今回は、ジャマイカ出身のアーティストで、「おぉキャロライナ!!」や「ブンバスティック」などのヒットで知られ、1990年代半ばにはグラミーの最優秀レゲエ・アルバム賞も獲得しているシャギーと、完全にイーヴンな関係でつくりあげたという注目の作品。