そこで出てくるのが、どうして、こんなに明白な法令違反を犯してまで、「認可適当」の答申を得ようとしたのかという疑問だ。私の経験では、役人が自分だけの判断でこんな「故意事件」を起こすことはない。松井知事の指示があったのかどうか、あるいは外部の政治家の圧力があったのか。そういう疑問を持つのが自然だろう。
国レベルでは、今、安倍総理や昭恵夫人の関与があったのかどうかという議論が行われているが、大阪府の場合は、職員が総理夫妻のことをそんなに気にすることはないだろう。財務省が森友学園側にいろいろ親切に対応しているのを見て、大阪府もそれに付き合ってしまったというような話もあるが、それもおかしな話だ。
私が昨年、本件を担当している大阪府の私学課関係者に取材したところ、当時、基準違反であることは認識されていたが、府庁内に本件は推進すべき案件だという雰囲気があり、基準違反だから止めるべきだという話にはならなかったということだけ聞くことができた。比較的正直に答えてくれた人は少なかったので、これだけでは確たることは言えないが、それでも、国と似た構造が浮かび上がる気がする。
それは、当時は、大阪における維新一強という状況があったということと関係する。マスコミでも、橋下前大阪府知事や松井知事を強く批判する勇気のある記者は非常に少なかった。
また、今回近畿財務局の改ざん文書で削除された内容の中に、維新の国会議員などが森友学園の幼稚園を訪問していることなどが含まれていた。森友学園のバックに維新の国会議員などがいるということを、近畿財務局の職員が強く意識していたことは確実だ。維新の政治家の意向ということであれば、近畿財務局職員よりも大阪府の職員に対して強い影響を与えるだろう。つまり、橋下、松井両氏をはじめ維新の政治家の力を意識しながら、本件について、審査基準違反という役人がやってはいけないことを行ったのではないかという疑いが出てくる。国のレベルで行われた財務省の国有地不当安値売却と同じような構造があったのではないかということだ。
橋下前知事は、昨年、ツィッターで「(規制緩和後の)審査体制強化をワンセットでやるべきだった。ここは僕の失態」、「財務状況の確認がなかった。府の判断はミス」と繰り返し「ミス」だったことを強調した。自分の「ミス」が事務方の「ミス」を呼び、不適切な認可につながったというストーリーだ。自分のミスを素直に認めて、謙虚で真面目な姿勢をアピールする。そして、ミスなら仕方がない、しかも正直に認めて謝っているのだから、もういいじゃないかという庶民の素朴な反応を期待したのだろう。しかし、重大な法令違反問題については明確に触れないという姿勢は、問題を隠そうとしたのではないかという批判を受けても仕方がない。
3月14日の記者会見で、松井大阪府知事は、大阪府の行為が、森友問題の引き金を引いたということについての責任を感じるかと質問された。質問したのは大阪府の記者クラブの記者ではなかった。ネットニュースIWJの記者だ。それに対して、やや不機嫌そうな顔で、設置基準の規制緩和をしたことについて、それは、大阪の私立学校の間で、もっと切磋琢磨させるためであって、森友に便宜を図ったものではないから、責任は感じていないという趣旨の発言をした。ここでも、設置基準の規制緩和については言及するが、あえて、審査基準に合致していなかったことについては触れなかった。大阪の記者たちもそこを突くことはなかった。忘れてしまったのか。あるいは、タブーになっているのだろうか。
繰り返して言いたい。森友学園をめぐる疑惑の核心は、国有地を8億円値引きして売却した財務省ルートだけではない。森友学園の小学校の設置が、審査基準に違反していることを不問にしたまま、「認可適当」という答申が出された大阪府ルート。この疑惑についても同様に解明がなされなければならない。
当事者に自浄能力がないことははっきりしている。マスコミが、この点を取材し、正確な情報を国民に知らせる努力をすることを期待したい。
【訂正とお詫び】
文中に大阪府が森友学園の小学校新設について「認可」という記述があり、橋下徹前大阪府知事よりツイッターなどで事実に反するとのご指摘をいただきました。
「認可」というのは事実ではなく、正確には、大阪府の私立学校審議会で条件付き「認可適当」の答申があり、森友学園と近畿財務局は「認可」を前提に、その後の手続きと建設工事を進めたものの、2017年2月に問題が発覚し、同学園が翌月に認可申請を取り下げたというものでした。
問題点は、「大阪府私立小学校及び中学校の設置認可等に関する審査基準」に違反する内容であるにもかかわらず、同学園からの申請を受理し、その違反が是正されないまま、私立学校審議会で条件付き「認可適当」の答申が出たことでした。従いまして、本コラムのうち、関連部分を訂正させていただくとともに、関係者と読者にお詫び申し上げます。(古賀茂明・AERAdot.編集部)