もう一つの偏りは、マスコミに登場する医師が必ずしも「名医」ではないことです。
メディアや記者の都合が影響しているようで、知人の医療専門記者は、「東大教授や国立がん研究センター部長のような『肩書き』を重視し、コメントを求め、紙面で紹介する人もいる」と言います。
しかし、東大教授には研究中心でやってきた人も多く、全員が名医であるとは限りません。著名な医師は、しがらみも多いため、なかなか「本音」を語らないケースもあるでしょう。
記者と個人的に親しく、コメントを取りやすいため、しばしばメディアに登場する医師もいます。特に週刊誌は、この傾向が強いようです。
かつて、永田政義・順天堂大学泌尿器科准教授(当時国立国際医療研究センター泌尿器科医長)と共同で、週刊誌のがんの記事を検証しました。すると、全体の約34%の記事が特定の5名の医師のコメントを中心にまとめられていました。記事の内容は医学的に間違っていませんが、一定のバイアスが生じるのは避けられません。
メディアも原則として商業媒体です。読者の関心や、低コストでコメントが取れること、社内の人間関係も反映して記事ができあがるのです。この構造を認識してください。
■患者数ランキングに注目せよ
では、マスコミ情報はどう活用すればいいのか。
私は、病院選びの際は「患者数ランキング」の記事を参考にすることをお勧めします。新聞や週刊誌は「心臓手術の多い病院トップ100」といった記事をしばしば掲載します。
心臓手術でもがんの治療でも、専門病院に来る患者の多くは地元の病院や開業医から紹介されてきます。
紹介元の医師にとって、どの病院を紹介するかは極めて重要です。
患者は自分の「顧客」であり、低レベルの病院を紹介したら、自分の患者が不利益を蒙こうむることになり、こうした評判は地元ですぐに拡がります。逆に、トップ病院に紹介できれば、それだけで病院の評判は上がります。
つまり、紹介元の医師は患者の紹介を通じて、専門病院のレベルを評価しているのです。その要約が患者数ランキングです。医師同士の真剣勝負の結果ですから、他の記事と比べて遥かに信頼性が高いと考えられます。「どの病院のレベルが高いか」と聞かれたら、私はマスコミの患者数ランキングを参考にするようにとアドバイスしています。これまで、大きな外れはありません。
※『病院は東京から破綻する』から抜粋