自分や家族に医療が必要になったとき、望ましい医療を受けるには、患者自身が賢くなるほかない。患者のニーズは多様になり、医師も多様化している。現役の医師であり、東京大学医科学研究所を経て医療ガバナンス研究所を主宰する上昌広氏は、著書『病院は東京から破綻する』で、マスコミの医療報道について提言している。
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昨今は、マスコミの医療報道も盛んです。なかでも、名医特集はキラー・コンテンツです。「がんの名医100人」や「信頼できる認知症専門医」などの記事を一度はご覧になったことがあるでしょう。
皆さんはマスコミの記事を、どの程度信頼していますか。
私は医療報道に関心があり、診療の傍ら、新聞や雑誌なども調査対象に研究を行い、論文も発表しています。
調べた限り、メディア報道のほとんどは医学的に正確で、記載されている事実が間違っていることは極めて稀でした。
ただし、医療報道に大きな偏りは感じました。
有名人が病気を告白したり、亡くなったりすると、その病気に関する報道が急増するのです。川島なお美さんが発症した胆管がんも、その典型例です。彼女が亡くなった15年9月24日から年末までに、全国紙4紙は胆管がんに関する35報を報じました(訃報を除く)。15年1月から9月24日以前の胆管がんに関する訃報以外の記事はわずかに10報で、うち9報は千葉県がんセンターと群馬大学医学部附属病院の医療事故に係わるものです。
こうしたメディアの特性は、過度に注目される病気が出る一方で、「陽の当たらない病気」を作り出します。
その代表が小児の病気です。子供の闘病自体は、マスコミが飛びつきそうなテーマですが、子供の有名人が少ないため、記事化自体が稀です。ゆえに、小児難病の問題点はなかなか社会と共有されません。メディアの医療報道の構造的な限界です。
■メディアに出る医師が必ずしも名医ではない