――長い道のりでしたね。
20代で活動している医師には、おそらく巡り合っていません。現場では自分一人で診療を完結させる必要があるため、ある程度の経験が求められることはやむを得ない。
――日本事務局として派遣された医師の人数は。
2016年までに医師や看護師など107人のスタッフが、34の国や地域で活動しています。私自身は、スーダンに始まり、インドネシア、パキスタン、シエラレオネなど。だいたい3カ月から長くても半年程度です。昨年はバングラデシュでロヒンギャ難民の援助活動に参加。11年の東日本大震災や16年の熊本地震でも緊急援助に入りました。
――紛争地域に行くことに不安はありますか。
よく聞かれるのですが、不安はないんです。ニーズがある以上、そこを避けていたら「国境なき医師団」は務まりません。国内の医師から「外国好き」と揶揄されることもあります。しかし、たとえばエボラ出血熱が広がる前のギニアは、人口10万人に対して医師はたった1人です。一方で、日本は10万人対で約230人いますが、これでも偏在で問題になるほどです。国内外にかかわらず世界中でニーズがあるところで活動したい。
――最後に聞かせてください。たとえば、紛争地域で加藤医師が懸命に治療した兵士が回復したものの、再び紛争地に出向いて人を傷つけることがあるかもしれません。
そうですね……。この人を治療したら、またどこかの戦闘へ行ってしまうと思うことは、これまでもありました。でも医師としては目の前の患者を助けること以外、考えられません。その人を裁く権利は私にあるとは思えません。目の前の命に向き合うだけです。
(文・構成/井上和典)
※AERAムック『AERA Premium 医者・医学部がわかる2018』から抜粋