【THE BEATLES “HEY BULLDOG”】

 記録によれば、ザ・ビートルズは、今からちょうど半世紀前ということになる1968年2月11日、ジョン・レノンの書いた「ヘイ・ブルドッグ」を録音している。「レディ・マドンナ」を仕上げた数日後のことで、あの曲でポール・マッカートニーが弾いていたピアノを少なからず意識してのことなのか、ここではジョンがピアノを担当。低音部で弾く印象的なリフからスタートし、そのリフを核に曲が展開していく。同年夏公開のアニメーション・フィルム『イエロウ・サブマリン』で使われたものの、シングルにはならなかったため、いわゆる代表曲として数えられることはないが、なぜか僕は大好き。ビートルズが残した約240のオリジナル曲のなかで5番目くらいに好きかもしれない。

 ところで、この曲も当初はブルドッグとは関係のない曲として書かれたらしい。SheepdogとBullfrog(ウシガエル)、ChildlikeとJackknifeなど、ヴァースの頭で韻を踏んでいく言葉遊びのようなつくりなのだが、録音途中でポールが犬のように吠えたことなどに触発され、「ヘイ・ブルドッグ」ということになったらしい。

 なんとも愉快で、微笑ましいエピソードだ。しかもそれだけではなく、この時点まではビートルズが本来の意味でのバンドだったことを示す貴重なエピソードでもある。

 実際、周囲の人たちは「ヘイ・ブルドッグ」を、4人がそろって、心を一つにして録音した最後の曲と記憶しているようだ。その3カ月後の5月から10月にかけて録音された2枚組アルバム『ザ・ビートルズ/ホワイト・アルバム』は、極端ないい方をすると、ソロ作品の寄せ集めのような雰囲気になってしまっていて、たとえばポールが書いた「マーサ・マイ・ディア」のセッションにはジョンもジョージもリンゴも参加していなかったらしい。

 そういえば、ポールのその曲、ストレートに聴けばちょっと苦めのラヴ・ソングといったところだが、タイトルの「マーサ」はあのころ彼が飼っていたオールド・イングリッシュ・シープドッグの名前だったとか。(音楽ライター・大友博)

著者プロフィールを見る
大友博

大友博

大友博(おおともひろし)1953年東京都生まれ。早大卒。音楽ライター。会社員、雑誌編集者をへて84年からフリー。米英のロック、ブルース音楽を中心に執筆。並行して洋楽関連番組の構成も担当。ニール・ヤングには『グリーンデイル』映画版完成後、LAでインタビューしている。著書に、『エリック・クラプトン』(光文社新書)、『この50枚から始めるロック入門』(西田浩ほかとの共編著、中公新書ラクレ)など。dot.内の「Music Street」で現在「ディラン名盤20選」を連載中

大友博の記事一覧はこちら