そういえば、2018年は戌年ではないか。と、ようやく気づいたかのように思ったとき、メンタル・バックグラウンド・ミュージックが切り替わった。BBCセッションズに「トラヴェリング・リヴァーサイド・ブルース」の録音を残したこともあるレッド・ツェッペリンの「ブラック・ドッグ」だ。
【LED ZEPPELIN “BLACK DOG”】
1971年秋発表の通算4作目、サイド1の冒頭に収められた「ブラック・ドッグ」の凄さは、あらためてここで語るまでもないだろう。
ジミー・ペイジがレスポールの6弦を数秒間ミュート気味に弾き、その音に導かれるようにしてロバート・プラントが強烈なテンションで歌い出す。そしてほぼア・カペラで唄われるそのヴォーカル・パートを受けて、バンドが、ジョン・ポール・ジョーンズが練り上げたものだというリフへとなだれ込んでいく。とりわけ耳を奪われるのは、全体をリードしていくジョン・ボーナムの力強く表情豊かなドラミング。変拍子とかポリリズムなどといった解釈や、安易なコピーを拒絶するような複雑な構成と、そういったことを意識させずに徹底したヘヴィネスへとまとめ上げていく演奏力の高さは、レッド・ツェッペリンが4枚目にして頂点を極めたことを示すものだろう。
「ステアウェイ・トゥ・ヘヴン」「ロックンロール」「ゴーイング・トゥ・カリフォルニア」などの名曲が並ぶ傑作アルバムのオープニングに据えられたこの曲、歌詞には犬らしき動物の影すらないのだが、英国南部ハンプシャー州のスタジオで録音を終えたとき、その周りを歩き回っていたブラック・ラブラドール・レトリーバーからインスピレーションを受けて「ブラック・ドッグ」というタイトルを思いついたらしい。怖いものなし、ということか。頂点に立った彼らの自信を物語る逸話ともいえるだろう。
レトリーバーを連れた男性と別れてから数分後、川が大きくカーブするあたりで、つくり話のような展開だが、ブルドッグと散歩する女性を見かけた。そして当然のことながら、ここでまた、メンタル・バックグラウンド・ミュージックが切り替わる。そう、あの曲に。