2018年の干支は戌(いぬ)年。ロックの名曲には、犬にまつわるエピソードもある。そのなかから、音楽ライターの大友博さんがレッド・ツェッペリンとビートルズについて語る。
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【ROBERT JOHNSON “TRAVELLING RIVERSIDE BLUES”】
2018年1月1日。暗いうちから歩きはじめ、東の空がほんのりと明るくなったころ、川辺の道に出た。
メンタル・バックグラウンド・ミュージックはロバート・ジョンソンの「トラヴェリング・リヴァーサイド・ブルース」。あのブルースの古典で歌われているローズデイルやフライアーズ・ポイント、ヴィックスバーグは、いずれもミシシッピ川に面した土地の名前。20年ほど前、ブルースの聖地を巡る旅の途中に訪ねたことがあり、訳もなく、当時のあれやこれやを懐かしく思い出したりする。スケールも空気感もまったく違うが、ともかく気分だけは「トラヴェリング・リヴァーサイド・ブルース」だ。
あれは2011年の5月。ロンドンでエリック・クラプトンにインタビューしたとき、彼は、若いころに耳にし、そのまま自分のなかから離れなくなってしまった音楽の集合体を、メンタル・ジュークボックスという独特の表現で語っていた。古いスタンダードに敬意を込めて取り組むのは、単なるカヴァーではなく「Exorcism(悪魔祓い)のようなもの」。そんなふうにも語っていたのだった。
メンタル・バックグラウンド・ミュージックは、すいません、そのパクリです。僕の中にも、それなりの音楽的蓄積があり、ディヴァイスに頼らなくても歩きながら音楽を楽しむ程度のことはできる。やや偉そうだけど、つまりそういうことなのです。
そんなわけで、「トラヴェリング・リヴァーサイド・ブルース」を頭のなかに響かせながら川沿いの道を歩いていると、愛犬と新年早々の散歩を楽しむ男性と出会った。
美しい毛並みのブラック・ラブラドール・レトリーバー。何度か見かけたことがある人なので、ちょっと頭を下げてすれ違おうとすると、そのレトリーバーが近寄ってきた。優しい瞳の、いい表情だ。こちらも、自然に手が伸びる。