ただし、血圧は一気に下げるのではなく、血流を確保しながら血圧をコントロールする必要があります。どの程度まで血圧を下げるか決まった数値はありませんが、一般的には収縮期血圧を140mmHg 以下に保つようにします。適正な血圧の数値は患者の状態をみながら決めます。
また、血腫の周囲にできるむくみ(浮腫)を取り除く抗浮腫薬(グリセロール)も点滴で投与します。むくみを放置すると頭蓋内圧が高くなり、脳が本来あるべき位置から移動して脳の他の部分を損傷する脳ヘルニアを発症する危険性があるからです。
抗浮腫薬は脳出血の発症から2週間程度まで点滴で投与されますが、むくみの程度によっては短期間で終わる場合もあります。
なお、脳梗塞や心筋梗塞を発症したことがあり、血液を固まりにくくする抗血栓療法の薬(アスピリンなどの抗血小板薬、ワルファリンなどの抗凝固薬)を服用している場合は、一時的に服用を中止します。抗血栓療法の薬によって出血が増える危険性があるためです。
こうした薬による治療と併せて、病院の医療チームでは慎重に全身管理を続けて合併症を起こさないようにしています。安静状態が続くと足の静脈に血栓(深部静脈血栓)ができる可能性があるので注意が必要です。また、脳幹出血などで呼吸状態が悪い患者には人工呼吸器を使用する場合もあります。ほかにも胃などの消化管からの出血や肺炎などの感染症を予防することも大切です。
■外科治療 手術は避ける傾向 水頭症には脳室ドレナージ
脳出血の治療ではかつては積極的に手術で血腫を取り除いていましたが、最近では手術をおこなわない方向に変わってきました。
「血圧を下げ、むくみを抑える内科治療だけでも、長期的にみた予後は手術した場合と大差ないことがわかってきました。それならばあえて患者に負担の大きい手術はしないほうがよいと考えられるからです」(同)
外科手術をおこなうのは、出血量が31ミリリットル以上か血腫の大きさがCT(コンピューター断層撮影)画像で3センチ以上ある、患者の意識状態が悪い、など重症の場合です。