次打者・西川遥輝を迎えたところで、藤原は伸びをするように両手を上げると、右手で帽子を取った。さらに帽子を3本の指で挟みながら、親指と人さし指でメガネを外し、汗を拭おうとした。そこへ捕手・炭谷銀仁朗の返球が来たからたまらない。炭谷もまさか藤原がこんな無防備な姿になろうとは、予想もできなかったようだ。

 しかも、ボールはよりによって、藤原の右胸の上あたりにあったメガネをストライクで直撃。衝撃でレンズが外れ、マウンドに落ちてしまった。炭谷と2人の審判がマウンドに集まり、4人がかりの大捜索となった。「もし見つからなかったら、替えのメガネは持っているのだろうか?」とファンも思わず心配してしまった。

 しばらくして、マウンド後方のロージン付近で藤原が発見して一件落着。レンズをメガネにはめ直した藤原は、西川を二ゴロに打ち取り、この回をゼロで抑えたが、「ボールから目を離すな」という基本を身に染みて痛感したことだろう。

●プロフィール
久保田龍雄
1960年生まれ。東京都出身。中央大学文学部卒業後、地方紙の記者を経て独立。プロアマ問わず野球を中心に執筆活動を展開している。きめの細かいデータと史実に基づいた考察には定評がある。

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