ところが、エビデンスに基づく医療(Evidence-based Medicine)が全盛の昨今、患者の価値観よりも、エビデンスを優先する医師が珍しくありません。昨今の医療界で、柔軟に考えることは、皆さんが想像するよりもずっと難しいのです。
医師に柔軟性が求められるのは、全人的なケアが求められる時です。終末期の患者にとって、病気は人生の一部です。残された時間の中で、家族、仕事、人生の総括など、さまざまなことを考えねばなりません。医師は、患者がこのような問題に折り合いをつけていくことをサポートします。
患者は単なる病人ではなく、職業人、妻、母、地域住民などのさまざまな顔を持っています。全人的に患者を理解しようとすれば、医師には多岐に亘る教養が必要です。私が「柔軟な対応」をしていると感じる医師は、ほぼ例外なく読書家で、普段から貪欲に学んでいます。主治医にするなら、「エビデンスに基づく医療」として医学的に正しい情報だけを伝える医師と、柔軟に対応できる医師、どちらがいいか、言うまでもないでしょう。
次回は、さらなる「主治医の条件」をお伝えします。
※『病院は東京から破綻する』から抜粋