かといって、自分は思いつめていないとわかってもらうには手間がかかる。手っ取り早く誤解の芽を摘むには、笑顔でいることが一番だ。

 もちろん、楽しそうにしていることにも「副作用」が付きまとう。「好きな仕事だけやって楽をしている」と勘違いされる心配だ。配偶者に話したら「そんなこと、誰も思わない」と笑われた。まあ、私の様子を毎日見ているからそう思うのだろう。

 先ほど笑顔をコツ、つまりテクニックと表現した。笑顔にも体力がいるから、最小限のやりとりしかしてこなかった医療関係者は私に対して、どちらかといえば不愛想な印象を持っているのではないか。発病前に苦手だった人間は苦手なままだ。先輩記者と話していた時、共通の知り合いの悪口を言ったら「お前、変わってないな」とあきれられた。「病気は人を聖人にはしないのです」と返したら、ひどくウケた。

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 大学時代に小さな映画館で「サリヴァンの旅」(1941年、米国)という作品を見た。

 主人公サリヴァンはコメディ映画の監督。これからは社会派のドキュメンタリー作品を撮ろうと決心し、社会の現実を見るための旅に出る。トラブルで刑務所に入った彼は、慰問でかかった映画に笑い転げる受刑者を目の当たりにし、自らも笑い出す。なんとか脱出に成功すると「笑いは、誰もが持っている無限の力だ」と、映画づくりの仲間に宣言。改めてコメディの世界で生きていこうと決心する――という内容だ。

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