「商工中金」と言えば、ほとんどの人がどこかで目にしたり耳にしたりしたことがあるのではないだろうか。政府と民間団体が共同で出資する唯一の政府系金融機関「商工組合中央金庫」の略称だ。
多くの政府系金融機関は融資や出資に特化した機能を持つのに比べ、商工中金は、預金の受け入れ、債券の発行、国際為替、手形を通じた短期金融など、「幅広い総合金融サービス」を行っている点で民間金融機関に極めて近い性格を有している。今は販売されていないが、「リッショー」「ワリショー」などの債券はよく宣伝されていたので、その広告を目にした方も多いだろう。
この商工中金による不正が発覚したのは昨年10月のことだった。商工中金が、融資実績を上げるために、融資先の業績などを改ざんしていたことが判明したのだ。
不思議なことに、その改ざんは、通常の粉飾などとは逆で、実際は、融資先の業績が良いにもかかわらず、あたかも業績が悪いように見せるための改ざんだった。
その後の調査で、不正はほぼすべての支店で行われたことがわかり、トップの安達健祐社長が辞任を発表するなど、全職員の2割にあたる約800人が処分の対象となった。まさに会社ぐるみの暴走だったのだ。
■国民の災難は経産・財務両省にとっての「幸運」
1936年に設立された商工中金は、冒頭に書いた通り、業務内容が極めて民間金融機関に近く、「民業圧迫」という批判が常になされてきた。そのため行財政改革の一環として小泉改革でやり玉にあがり、将来の民営化方針が決まった。それを受けて、2008年に特殊会社に改編され、その後、5~7年を目処に政府出資を減らし、最終的には完全民営化される予定だった。
もちろん、その方針に経済産業省は大反対だった。商工中金は、経産省の歴代次官がトップに就く最優良天下り先だったからだ。
小泉内閣は、その反対を押し切って、民営化に舵を切り、トップに民間人を持ってきた。同時に、他の政府系金融機関、日本政策投資銀行、国際協力銀行、日本政策金融公庫についてもトップを民間人として、財務省次官級OBの天下りを止めた(ただし、いずれの機関も、副社長は天下りということにして財務・経産両省に配慮していたことはあまり知られていない。