〝純ジャパ〟ニューヨーク・タイムズ記者の上乃久子さん
〝純ジャパ〟ニューヨーク・タイムズ記者の上乃久子さん

 アメリカの有力紙「ニューヨーク・タイムズ」東京支局で取材記者として働く上乃久子さんは、帰国子女ではなく、留学経験もない。いわゆる“純ジャパ”の彼女がどうやっていまのポジションを得たのか? 「AERA English 2017 Autumn & Winter」(朝日新聞出版)で上乃さんに話を聞いた。

* * *
 上乃さんが初めて会う人に自分の仕事を説明すると、高確率でこう聞かれるという。

「では、帰国子女なんですね?」

 答えはノー。海外生活も留学の経験もない。瀬戸内海沿いの小さな町で生まれ育ち、幼いころに英語に触れる機会も一切なく、日本国内での勉強だけで英語を専門的に使う仕事に就いた「努力の人」だ。

「留学・海外生活経験がない日本人を“純粋ジャパニーズ(純ジャパ)”と呼ぶようですが、私はその一人。怒られ、恥をかき、そして落ち込む。この繰り返しで日々打ちのめされながら英語力をつけていき、今に至ります。間違えてもいいからとにかく話す、わからなかったら聞き返すことが大事。現在もそれを繰り返しながら仕事をしています」

 上乃さんは大学卒業後、バイリンガル雑誌社、翻訳会社、ロサンゼルス・タイムズ東京支局、国際協力機構(JICA)などで英語を使う仕事に携わってきた。2012年からニューヨーク・タイムズ東京支局取材記者となり、取材した内容や調査資料をネイティブの特派員に通訳・翻訳したり、記事の材料となる英文の取材リポートを執筆したりする業務を担当している。

「私は“360度包囲網”と言っていますが、いつ、どんな事件やテーマがどこから飛んでくるのかわからないんです。北朝鮮のミサイル発射など政治・国際情勢に絡む問題から、災害や事件・事故、皇室、経済、スポーツ、文化などあらゆる分野のニュースに対応しなければならず、英語で何と言うかわからなかったらどうしようと、いつも不安なんです」

 過去には、こんなつらい思いもした。ロサンゼルス・タイムズ東京支局に入社して間もないころだ。特派員とともに証券会社を取材に訪れ、部長とのインタビューの通訳を任された上乃さん。ところが先方の話す内容が専門的すぎて、まともに通訳できず顔面蒼白に。落ち込んでいる彼女に、当時の支局長が追い打ちをかけた。

次のページ