以前、妊婦がたらい回しにされ亡くなった事件がありました。これは産婦人科医を希望する医者が減ったことに原因の一つがあります。産婦人科医の減少は、実は「何日の朝昼晩いつ生まれるかわからない」という自然分娩による過度の疲労が関係しています。「おなかを痛めてこそ」という考え方は、違う場所では弊害ともなり得るのです。私は「自分がおなかを痛めても痛めなくても、たとえ自分の中から生まれなくても、育てていれば自分が母親だ」ということをとにかく主張したいです。

 ただ、うちの息子は胎内にいるときにへその緒で遊んでいたようで、へその緒が首に絡まり通常の分娩は無理と言われ、結局、無痛分娩ではなく帝王切開をするはめになりました。おかげで、1日目は痛くてずっと悶えていました。

 よくイタズラばかりする子で、そこが可愛いといえばそうなのですが、へその緒のイタズラ事件はいまだに「息子があんなことしなければ」と心の中で思っています。痛い思いをして産んだはずなのに、そのときは「許せん……」と腹がたっていたわけで……、やっぱり「おなかを痛めてこそ愛情が湧く」論は改めて変だな、と思うのですが、どうでしょうか?

(文/杉山奈津子)

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杉山奈津子

杉山奈津子

杉山奈津子(すぎやま・なつこ) 1982年、静岡県生まれ。東京大学薬学部卒業後、うつによりしばらく実家で休養。厚生労働省管轄医療財団勤務を経て、現在、講演・執筆など医療の啓発活動に努める。1児の母。著書に『偏差値29から東大に合格した私の超独学勉強法』『偏差値29でも東大に合格できた! 「捨てる」記憶術』『「うつ」と上手につきあう本 少しずつ、ゆっくりと元気になるヒント』など。ツイッターのアカウントは@suginat

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