理由は、十中八九「無痛分娩」をしたからだと思います。でなければ産んですぐに赤ちゃんのお披露目などできません。欧米の多くの国では子どもを産むのだって麻酔を使うのが主流であり、80~90%は無痛分娩なのです。そのため、2日や1日で退院するのはわりと「当たり前」だと言われています。

 しかし、なぜか日本人は、キャサリン妃のおくるみは真似しても分娩スタイルは真似しません。メディアによる「キャサリン妃は無痛分娩!」という記事も見ません。日本には「自然がいちばん」と信じ、「おなかを痛めて産んだ」という根性論のような言葉を美徳とする人たちが思いのほかにたくさんいるのです。「痛みを感じて産まないと赤ちゃんへの愛情が薄くなる」と言う人も多いです。

 私は誰が何を信じようが結構だと思っていますが、声を大にして言いたいのは「自分の信念を重要視するあまり、他人にも押し付けて批判してくるのはいかがなものか、ということです。そう、日本人は「無痛分娩」という産み方を、やたら嫌うのです。

 もし痛みを伴わないと愛情が感じられないなら、出産の痛みと無関係な父親は子どもに愛情をもてないのでしょうか。養子に対しては愛情を感じないのでしょうか。痛覚があるかもしれないと議論中の「魚」に関しては、産みっぱなしで放置していく何十万の魚卵一つ一つに愛情を感じているのでしょうか。

 欧米では、日本人が麻酔を使わないことに対し、「痛いのが美徳だなんて奇妙」と言う人や、「無痛分娩しない人は、麻酔するお金がないの?」と言う人もいるくらいです。漫画家の西原理恵子さんは、「無痛分娩に文句があるなら麻酔なしで歯の治療をしてみろ」と言っています。

 私は、愛情は「痛いから」生まれるのではなく、「育てていくうちに芽生えてくるもの」だと思っています。痛みで愛が出てくるなら、転んでぶつかった机にさえ愛情が芽生えてしまって困るでしょう。

 そんな調子なので、日本では周りの目を気にして「少し麻酔を入れるがあえて痛みも残す」という、間をとった「和痛分娩」という独自のスタイルも存在しています。

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