一方、日本はこの条約に交渉開始決議段階から賛成せず、最終的にも2017年7月に採択された条約に参加しないことで国際社会における信用を大きく傷つけ、唯一の被爆国として核廃絶を願うというこれまでの言葉が嘘だったのかという印象を与えた。これは、自国を守る目的の米軍の核を正当化するためなのだが、一方で、今、北朝鮮の核保有を口を極めて批判している。その論理は、誰がどう見ても破たんしている。

 さらにひどいことに、安倍政権は、NPTに加盟していない核保有国インドとの間で原子力協定を結び、原発を輸出し核技術協力をすることになった。北朝鮮と同じことをした国に対して、こんな破格の扱いをするのは論理破たんの極致である。インドは、これによって大きな特典を与えられたと考えているだろう。世界中から、NPT非加盟の核兵器保有を批判される中で、「被爆国」日本から、その行動にお墨付きを与えられたということがどれだけの重みをもつのか、彼らはよく理解している。訪印した安倍総理をお祭り騒ぎでもてなしたのはそのためだ。

 日本は、一日も早く、世界のパラダイムシフトに気づいて、国際社会の平和構築に向けた新たなスキーム作りのための先導的役割を果たすように外交政策の大転換を図るべきだ。

 今からでも遅くはない。核兵器禁止条約に加盟し、北朝鮮だけでなく他の全ての核兵器保有国に核兵器廃止の交渉を始めるように呼び掛けるのだ。そうした立場をとれば、「世界の非核化を実現するために努力する」と述べた金正恩委員長と安倍総理の直接対話の道も開けるかもしれない。米国一辺倒でないということを示すことで、日本にとって最優先の拉致被害者問題の解決のための対話の糸口が開ける可能性もあるのではないか。

 しかし、そうした路線転換を行うことは安倍政権には無理だ。

 北朝鮮問題解決への道を切り拓くためには、戦後レジームにしがみつき、米国一辺倒で世界中の信頼を失っていく安倍総理を代えることから始めなくてはならない。それが日本の平和を守る道なのだ。

著者プロフィールを見る
古賀茂明

古賀茂明

古賀茂明(こが・しげあき)/古賀茂明政策ラボ代表、「改革はするが戦争はしない」フォーラム4提唱者。1955年、長崎県生まれ。東大法学部卒。元経済産業省の改革派官僚。産業再生機構執行役員、内閣審議官などを経て2011年退官。近著は『分断と凋落の日本』(日刊現代)など

古賀茂明の記事一覧はこちら