ちなみに健診でおこなわれることの多い眼底写真の撮影は、2~3分もあればできる。眼底を撮影する眼底カメラも、今では瞳孔を開く散瞳薬が不要なものが一般的なため、からだへの負担も少ない。それにもかかわらず、健診制度の大きな変化のために受診率は低下している。
日本は糖尿病患者の年間眼底検査受診率が先進国では最下位の37%(先進国平均57%)。眼底検査の受診状況では後進国といえる。
また現在、世界的に問題になっている視覚障害最大の原因は「未矯正の屈折異常」、つまり、適正な眼鏡やコンタクトレンズを装用できていないことによる視覚異常だ。それらが視覚障害全体の43%にも及ぶ。視力は年々変動するにもかかわらず、昔作った眼鏡を使い続けてしまうなど、実はよく見えないまま生活している人は多い。それも立派な視覚障害と平塚医師は話す。
「数年に一度は眼鏡やコンタクトレンズの度数が合っているかを確認してほしいですね」(同)
健康寿命を延ばすうえでも、「見えて」「歩けて」「食べられる」という3要素が大事になってくる。整形外科は「ロコモティブシンドローム」として運動器障害の予防、歯科では「8020運動」として「80歳になっても20本以上の歯を保つ」デンタルヘルス啓発運動を推進し、一般的にも評価を得ている。
その点、眼科の啓発運動はやや遅れ気味だ。視覚障害を減らすことは、健康寿命の延伸に寄与することがわかっているのにもかかわらず、厚生労働省が進める「健康日本21」の目標項目のなかにも視覚に関する記載はない。眼の健康の重要性がいまだ広く世間一般にも認知されていないことを平塚医師は危惧する。
「眼の病気のみならず生活習慣病など全身の疾患、脳卒中などの重篤な疾患リスクまでわかるのですから、ぜひ40歳を過ぎたら一度は眼底検査を受けていただきたいです」(同)
(取材・文/石川美香子)