平塚医師は現在、順天堂医院の糖尿病網膜症専門外来で糖尿病患者の診察もおこなっている。網膜に軟性白斑などの血管病変が見つかったら、糖尿病を改善する内科的な治療をおこなう。そして、定期的に眼の経過を見ていくことにより治療効果の判定が可能になるという。

「早期に血糖値や血圧をコントロールして正常な範囲内に戻していくことができれば、軟性白斑があったとしても消失し、網膜もきれいな状態に戻ります。定期的に眼底検査をおこなうことで、糖尿病の治療の進み具合もわかります。病変の消失は、高かった脳卒中発症リスクも低下したということです」(同)

 網膜の異常から、早期発見、早期治療で重篤な病気のリスクも軽減できるのだ。

■視覚の改善が介護予防になる

 一方、高齢者の場合、眼底検査を受けると、同時に白内障も見つかることがある。早めに発見できれば、手術をおこなうことで、その後の寝たきり、転倒予防にも役に立つ。

 視覚障害があると、歩行速度や活動レベルを低下させるため、衰弱や転倒につながる。「衰弱」「骨折・転倒」は脳卒中、認知症に次いで、介護が必要になる原因の第3位と第4位という調査報告がある。

「その人が持ちうる最高の視覚で生活すること」が介護予防になると平塚医師は言い切る。「寝たきりにならず、健康に長生きする健康寿命を延ばすのに視覚は非常に大きな意味を持つ。にもかかわらず、眼は放置されていることが多いのです」(同)

 自治体における健診制度においても、以前は医師が必要と判断すれば実施できた眼底検査が、2008年の特定健診(メタボ健診)導入により、血糖、血圧、脂質、腹囲が全て一定の基準に該当したうえで医師が必要と認めるものしか実施されないことになった。その結果、メタボ健診における眼底検査受診率は現在0.7%以下と、以前の100分の1程度に減少してしまっているという。自治体によっては、住民全員が眼底検査を受けられるところもあるが、実施有無は自治体に委ねられており、地域格差は大きい。

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