カニヤクマリ駅。立派だ。かつては多くの人が利用したのだろう
カニヤクマリ駅。立派だ。かつては多くの人が利用したのだろう

 さまざまな思いを抱く人々が行き交う空港や駅。バックパッカーの神様とも呼ばれる、旅行作家・下川裕治氏が、世界の空港や駅を通して見た国と人と時代。下川版「世界の空港・駅から」。第32回はインドのカニヤクマリ駅から。

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 インド最南端の街、カニヤクマリ。この街の駅が、インド最南端駅になる。

 最南端、最北端といった表現は、“その国の”という但し書きが必要になる。

 以前、沖縄の波照間島を訪ねたとき、どうもそのあたりがしっくりこなかった。たしかに人の住む島の最南端は波照間島だが、それは日本の最南端である。南には、国は違うが、まだまだたくさんの人がいるはずだ。とくに違和感をもったのは星の話を聞いたときだった。

「最南端だから南十字星が見えます」

 といわれても、さらに南にある国に行っても南十字星は見えるわけで……と思ってしまう。ひねくれ者とは僕のような男をいうのかもしれないが。

 だから最南端とか最北端という場所はローカルな観光地になる。カニヤクマリもそうだった。インド人の観光地なのだ。

 駅に着き、ホテルを探したが、軒並み満室だった。ホテルの前にはインド人のツアー客を乗せてきた大型バスが何台も停まっていた。なんとか部屋を確保するまで1時間もかかった。

 カニヤクマリはヒンドゥー教の聖地である。市内にあるコモリン岬に立つと、インド洋、アラビア海、ベンガル湾が一度に見えるからだという。海からのぼる朝日を拝むことが、インド人のスタイルだった。

 翌朝の5時。コモリン岬にでかけてみた。インド人たちがぞろぞろと岬に向かって歩いている。沿道には貝細工やヒンドゥーの神の絵を並べた土産物屋がすでに店を開いていた。チャイ屋も灯がついている。

 海に沿って広場があった。そこから階段状が海まで続く。皆、そこに座って朝日を待っている。

 しかしその日は曇り空だった。太陽がのぼってきたことはわかるが、ぼんやりと雲の向こうが明るいだけだった。

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下川裕治

下川裕治

下川裕治(しもかわ・ゆうじ)/1954年生まれ。アジアや沖縄を中心に著書多数。ネット配信の連載は「クリックディープ旅」(隔週)、「たそがれ色のオデッセイ」(毎週)、「東南アジア全鉄道走破の旅」(隔週)、「タビノート」(毎月)など

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