インドの聖地といえば沐浴である。しかしその朝、海に浸かって沐浴をしているのは数人だった。
隣に20歳前後に見える青年がいた。沐浴はしないの? と声をかけてみた。
「汚くてできませんよ。ここは海だからまだいいけど、川の沐浴はね。両親に連れられてきたんだけど、ここあまり面白くないね」
新しい世代のインド人である。水道の水でシャワーを浴びてきたインドの若者は、沐浴を避けるようになってきているという話は聞いたことがあった。
「昨日、駅前にできた蝋人形館へ行ったんです。そこのほうが面白かった」
インドも急速に変わりつつある。それは宗教も巻き込んだ動きでもあるらしい。
僕は列車でカニヤクマリに着いた。終着駅だが、降りた客は少なかった。街で聞くと、多くがトリバンドラムまで飛行機を使い、そこから車でやってくるのだという。
宗教と鉄道──。ともに大きな変革を求められているということか。
下川裕治(しもかわ・ゆうじ)
1954年生まれ。アジアや沖縄を中心に著書多数。ネット配信の連載は「クリックディープ旅」(隔週)、「たそがれ色のオデッセイ」(毎週)、「東南アジア全鉄道走破の旅」(隔週)、「タビノート」(毎月)など
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