ワインドアップの有効性を生かせるフォームを身につけられるのであれば、それに越したことはない。しかし、菊池のように身体が大きく、トレーニングで増量した筋力がある投手の場合、勢いを制御していくのが簡単ではないのだろう。

 大谷や藤浪、千賀など、セットポジションで投げる投手に高身長なタイプが多いのはただの偶然ではないのかもしれない。
 
 千賀は言う。

「セットポジションはワインドアップと違って、無駄な動きがない。僕はコントロールに自信がない方なので、セットの方が安定できると思って始めました。身体に体重が乗りやすいかどうかは、ワインドアップでもどちらでも、身体をうまく使えば変わらないと思いますけど、僕個人としてはセットの方が無駄な動きが少なくなる分、ストライクが入る率が高くなると思います。僕は安定を求めてセットにしていますね」

 球が速くてもコントロールが安定しない大型投手というのは過去にも数多く存在した。身体のサイズとボールの質・コントロールとをうまく組み合わせようと試行錯誤を重ねてきたが、大きい身体を生かしきれない投手は少なくない。

 だが、それも今は昔。セットポジションではそれが安定するという「生きる道」が示されるようになった。大型投手に成功者が多く存在するようになったことは、つまり、野球の進化と受け止めるべき事象といえるのかもしれない。(文・氏原英明)