さまざまな思いを抱く人々が行き交う空港や駅。バックパッカーの神様とも呼ばれる、旅行作家・下川裕治氏が、世界の空港や駅を通して見た国と人と時代。下川版「世界の空港・駅から」。第23回はミャンマーのミッチーナ駅とミッチーナの新しい空港から。
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列車が到着したのは朝の5時だった。まだ暗い。駅前の茶屋に入り、明るくなるのを待つことにした。
しだいに白みはじめる空に、ミッチーナ駅が浮かびあがってきた。拍子抜けするような味気ない建物だった。どこか軍事政権時代を思い起こさせるような四角い駅舎だった。
ミャンマー最北端の駅である。前日、マンダレーから夜行列車に乗った。寝台車を選んだ。ほぼ24時間かかった。マンダレーとミッチーナの間は山が深く、バス便はない。列車と飛行機だけが頼りの街である。
マンダレー発車は午前5時。昼すぎ頃から、山が近づいてきた。老朽化した鉄橋をのろのろ渡り、こんもりとした丘陵地帯に分け入っていく。
日が落ちると、虫との格闘がはじまった。ミャンマーの列車には冷房がない。窓は開け放たれている。車内の電灯がともるのを待ち構えていたかのように、さまざまな虫が飛び込んでくる。ウンカ、カナブンもどき、羽アリ……。途中駅で買った駅弁に、彼らが次々に落下する。それをつまみあげては捨て、箸を動かす。ふと視界を横切る黒いものがあった。
「ネズミ?」
ミッチーナ行きの列車は、いったい何種類の生き物を乗せているのだろう。