2016年11月10日行われた新宿駅西口地域地震防災訓練。工学院大学1階のアトリウムでは「医療救護訓練」や「自衛消防訓練」が行われた(撮影/有川美紀子)
2016年11月10日行われた新宿駅西口地域地震防災訓練。工学院大学1階のアトリウムでは「医療救護訓練」や「自衛消防訓練」が行われた(撮影/有川美紀子)
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けが人役となった参加者を救護する。トリアージを行い、適切な場所へ搬送するなどの訓練風景(撮影/有川美紀子)
けが人役となった参加者を救護する。トリアージを行い、適切な場所へ搬送するなどの訓練風景(撮影/有川美紀子)
工学院大学3階には「西口現地本部」を設置、訓練を行った。入ってきた情報をボードにまとめる(撮影/有川美紀子)
工学院大学3階には「西口現地本部」を設置、訓練を行った。入ってきた情報をボードにまとめる(撮影/有川美紀子)
西口現地本部は本番さながらの緊迫感で訓練が行われた(撮影/有川美紀子)
西口現地本部は本番さながらの緊迫感で訓練が行われた(撮影/有川美紀子)

 東日本大震災から6年。地震活動期に入ったと言われる日本では、次にどこで大震災が起こってもおかしくない状況だ。地震発生時、もし首都圏、それも1日に約360万人が乗降する日本最大のターミナル駅・新宿周辺にいたとしたらどのような行動を取るべきだろうか。

 そのときはまず身の安全を確保した上で、以下の3アクションを思いだしてほしい。

1.むやみに移動せずその場にとどまる。
2.決して駅に向かわない。
3.行き場のない人は新宿御苑や新宿中央公園へ向かう。

「地震発生時、ターミナル駅でいちばん問題となるのはなんとなく駅に向かってくる人、あるいは駅にいてその場で右往左往する人たちです」と語るのは、区をはじめ事業者、団体で構成された「新宿駅周辺防災対策協議会(以下、協議会と略)」のメンバーのひとり、工学院大学建築学部の村上正浩教授だ。

 2011年3月11日、新宿駅も震度5弱の揺れにみまわれた。11路線の鉄道は運行を停止し、駅構内や周辺にいた人びとの多くがその場で右往左往し、駅周辺の高層ビルや都庁舎・区庁舎など公的な施設に膨大な数の人が押し寄せた。

 実は新宿区では地震時の帰宅困難者による混乱防止のために、2002年にはすでに現協議会の前身を立ち上げ、対策を取っていた。特に2007年以降は人が集中している新宿駅周辺~副都心エリアの企業、事業者などに向けて協議会で防災訓練を行ったり、講習会を開催したりして「いざ」というときにどのような対応をするかを周知していたはずだった。

 しかし、行き場を失った人の数は思っていた以上。徒歩で帰宅する大勢の人びとと交通渋滞も加わり駅周辺は混乱した。新宿駅西口に近く、地震発生時に西口エリアの地域防災拠点とされている工学院大学にも大勢の行き場のない帰宅困難者が押し寄せた。

「工学院大学は水野明哲学長(当時)の判断で帰宅困難者の受け入れを行いました。11日は約700人が1階のアトリウムや地下1階のロビーに滞在したのですが、その様子を見て思ったのは、駅周辺の事業者や関係組織だけではなく、たまたま新宿に居合わせた来街者に対しても日頃から地震発生時の地域の行動ルールを伝えていく必要があるということです」(村上教授)。

 協議会では、新宿駅周辺地域の防災対策の基本方針を「新宿ルール」として定めている。

1.組織は組織で対応する(自助)
2.地域が連携して対応する(共助)
3.公的機関が地域を支える(公助)

 地震発生の際はこのルールや行動指針に基づき行動するが、駅周辺の混乱を防止し都市機能を早期に回復するためにも、各組織は自分のことだけではなく、否応なしに行き場のない人びとへの対応を迫られることになる。

 実際、東日本大震災当日、新宿駅~副都心エリアにある鉄道6事業者、デパートなど商業施設、14棟の高層建築物では、それぞれが行き場のない帰宅困難者を受け入れたり備蓄品を提供したりさまざまな支援活動を行ったが、混乱は一晩中続いた。

 平成24年度の東京都防災会議は「首都直下地震等による東京の被害想定」で東京湾北部でマグニチュード7.3の地震が起こった際、新宿駅には約36万人の滞留者(うち行き場のない滞留者約5万人)が発生すると予想している。もしこの規模の地震が起こったら、混乱はより激しくなるのではないか。

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