「工学院大学は、学内の災害対策本部活動だけでなく、受け入れた帰宅困難者への支援活動を教職員と学生が手分けして行いました。備蓄品配布も行いましたが、そのときに一人一人に配りに行くのではなく、物資の配付場所に来てもらうかたちにしてしまったんです。後で気づいたら、乳児を連れた方や体調がすぐれない方、ご高齢の方は取りに行くことができずにいました。配り方を変えることも1つですが、支援する側の我々も被災者であり、限界があります。周囲の方が気遣って、取りに行けない方に声をかけ代わりに受け取りにいってくれることもなかったのが残念でした。自助と公助に限界がある中ではお互いに助け合うことが大切だと実感したんです」(同)。

 さらに村上教授が考えているのは「自助」を強化するシステムの開発だ。2016年11月に行われた「新宿駅周辺防災対策協議会新宿駅西口地域地震防災訓練」では、エリア対応支援システムを試験的に導入した。これは、工学院大学を拠点とする西口現地本部を中心に、災害対応にあたる施設管理者・避難場所等の運営者・来街者のそれぞれが発災後の適切な行動につながる情報をスマホやタブレットで共有できるものだ。

「今後は地震だけでなく、新宿駅周辺地域で懸念される地震と水害が複合した災害にも対応できるシステムにしていく予定です。とはいえシステムにはユニバーサルなデザインや、実装する機能の高度化も必要です。実は個々で新宿には優位性があって、新宿は企業が多く、新宿駅周辺にもこうした開発ノウハウをもつ企業がたくさんあるので、支援を受け開発し、協働して新宿オリジナルのシステムの開発を目指していきたいです」(同)。

 新宿の優位性はまだある。起きる地震の規模にもよるが、驚いたことに新宿駅周辺は地震の際の安全度が高いのだという。村上さんとともに西口での訓練で西口現地本部スタッフとして参加した減災アトリエ主宰の鈴木光さんは、
「特に西口周辺は地震発生直後の安全確保さえできれば、無理に歩いて家に帰るよりよほど安全です。人がたくさんいるのでけが人がいても搬送する人手がある。施設もたくさんあるので一時的に避難することもできます。それに新宿駅周辺は、周辺部にある木造密集市街地と比べても建物倒壊危険度や火災危険度が低いんですよ」と言う。

 考えてみれば、デパートや商店も多いので、エリア内には食材がたくさんあるし、周囲には大型ビジョンなどなどのサイネージも多く、情報も取りやすい。

 ただし、と村上教授、鈴木さん二人が声を合わせて言うには「発災したときに新宿駅周辺に滞在する人びとが統制の取れた行動ができた上での話」。そのためには冒頭の3アクションに加え自助と公助の限界をおぎなう“共助”も大切になってくる。共助は何も難しいことではない。乳幼児を抱えた女性、障害がある人、お年寄り、日本語が読めない外国人、スマホがない人もいる中、隣にいる人が手をさしのべるだけでもいい。それが駅周辺の混乱防止にも大きく貢献するはずである。

 今年の3月11日は土曜日だ。6年前の混乱をくり返さないよう、自分の通勤路を思い返しながら、いざというときに3アクションを取るイメージトレーニングしてみて欲しい。できればぜひ家族とともに。(ライター・有川美紀子)

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