「間質性肺炎を合併する高齢の患者さんの1割は、手術が成功しても何らかのきっかけで急性増悪という状態に陥ってしまいます。そうなると手の施しようがなく、40%は亡くなります。当科では周術期管理と手術の工夫で、手術死亡率を10%から2%にし、全体の死亡率を0.8%まで減らすことができました」(同)

 周術期管理とは、術前から術後までの一連の処置のこと。持病があり、加齢や喫煙などで呼吸機能が落ちている高齢者が、万全な状態で手術に臨むために必要なのが、持病のコントロールや呼吸機能を高める周術期管理だ。手術では、がんの場所によっては標準治療の肺葉切除だけでなく、小さく切る区域切除にする。また手術時間をできる限り短縮させたり、出血量を減らしたりすることで、患者の負担を減らしている。

 東海地方で4位となる191例(14年)の肺がん手術をおこなう聖隷三方原病院(浜松市)は、肺がん手術全体のおよそ1割が80歳以上という。同院の高齢者の肺がん手術の適応について、同院呼吸器センター外科部長の棚橋雅幸医師は、こう話す。

「当院では、からだに負担の少ない胸腔鏡手術を積極的に取り入れているため、以前より高齢者の手術適応は広がっています。基本的に高齢者の手術では、持病の有無、全身状態、認知機能、心肺機能などを重視し、年齢で区切ることはありません。ただ、進行肺がんの場合、体力のある若い人には、完全切除が見込めるなら積極的に手術をするという選択肢を勧めますが、高齢者では手術をせず、放射線治療などを勧める例もあります」

 棚橋医師によると、そもそも呼吸器内科から同科に紹介される高齢者は比較的元気な人たちであるため、ステージIであれば、ほとんどの患者が手術を受けられるそうだ。術前評価としては、やはり肺機能や心機能などを重視する。

「高齢になるほど肺に炎症の痕があったり、肺や血管がもろくなっていたりすることが多い。手術そのものは若い人よりも難しく、時間が長引くこともあります。手術による患者さんのからだへの負担や、QOL(生活の質)がどのようになるかを十分検討し、手術適応を判断しています」(棚橋医師)

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