週刊朝日ムック「手術数でわかるいい病院2017」で、高齢者(75歳以上)へのがん手術の実情と各病院の判断基準について、がんの中でもっとも死亡者数が多い肺がんを取材。他のがんでも、術後合併症の肺炎を懸念する医師が多い中、肺がん手術はそのリスクを回避できているのか? 実情を紹介する。
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全国4位となる322例(14年)の肺がん手術をおこなう順天堂大学順天堂医院は、80歳以上の肺がん手術は全体の約7%。平均より少なめだが、同院呼吸器外科教授の鈴木健司医師は、取材日の前週にも80歳と85歳の手術をおこなった。
鈴木医師は、高齢者独自の基準を設けて手術の適応を決める必要があると話す。
「肺がんというと難治がんという印象がありますが、CT(コンピューター断層撮影)でたまたま発見されるような小さながんの場合、放置しても80、90代の患者さんの余命に関係しないこともある。手術をすべきかどうかを、しっかりトリアージ(ふるい分け)しないといけない。呼吸器外科医の重要な仕事の一つだと考えています」
同科でも年齢だけで判断せず、全身状態や心肺機能、持病をコントロールできているかなどを総合して手術の適応を決める。また、肺葉をすべて切除する肺全摘は「右肺は70歳、左肺は75歳まで」と決めている。左右で違うのは肺の大きさが違うためだ。大きいほうの右肺を切除すれば、それだけ呼吸機能を失うので、左肺に比べ、適応の年齢を下げている。
全身状態では、術前評価「パフォーマンスステータス(PS)」を前提にしつつ、診察前の患者の様子も重視している。
「診察室に入ってくる際、元気に歩いてくる患者さんは、多少PSが悪くても手術や術後が順調なことが多い。一方、PSが良くても肩で息をしているような患者さんは、経過が悪いことがあります」(鈴木医師)
術後の合併症があっても、若い人であれば回復できるが、高齢者は長期生存に影響するという報告もある。鈴木医師が注視する持病は、間質性肺炎だ。肺の間質という組織に炎症が起こる病気で、高齢者に多い。この病気を持つ人が肺の手術をすると、術後合併症のリスクが極めて高くなる。このことから、患者を受け入れる病院は多くない。同科は慎重に手術すべきか判断して受け入れている。