認知症の人が死亡率が高くなる理由として、処方された抗がん剤を指示どおりに飲めないことや、発熱や下痢、痛みなどを適切に伝えることができず放置される可能性が高いことなどが考えられるという。
「医療技術の向上と高齢者の身体機能の向上があり、高齢でもどんどん手術できるようになってきました。しかし、本当にそれでいいのか、という時期に来ています。認知症と気づかれずに手術して、ストーマ(人工肛門)の使い方が覚えられないというケースもあると聞きます。認知症がなくても、独居だったらどうするか、介護する人がいなかったらどうするか、その人の生活環境、家庭環境を含めて、治療法を検討していく必要があります」(小川医師)
高齢者のがん治療にはエビデンス(科学的根拠)がない。仮に手術となった場合、各医師が経験に基づき、内容を決めていく。エビデンスがないからと言って、高齢者の手術が否定されるわけではない。むしろ、どんな条件下なら高齢者の手術に効果があり、寿命が延びるのか、本誌は現状を探り、問題提起していきたいと考えている。それは、小川医師が指摘するように、患者本人の医学的な状態のみならず、精神的側面、社会的側面を含めて検討していく必要がある。
それでは、肝がんを見ていこう。国立がん研究センターがん対策情報センターの統計(12年)によると、肝がんの罹患者は、75.9歳がもっとも多くを占め、80.4歳、85歳以上と合わせた75歳以上が49.3%になる。つまり、新規肝がん患者の約半分が75歳以上ということだ。
日本肝胆膵外科学会理事長で東京女子医科大学病院消化器外科教授の山本雅一医師に、高齢者の手術について学会などでエビデンスを作る動きはあるかを聞いた。山本医師はこう答える。