高齢者(75歳以上)のがん手術は、余命を延ばしているのか? 一部週刊誌で「手術する、しない」論争が起こったこともあり、週刊朝日ムック「手術数でわかるいい病院2017」で手術の是非を検証。「肝がん」ではどんな条件を満たした人に手術をしているか、病院ごとに聞いた。
2016年9月に開催された厚生労働省の「がん対策推進協議会」で、認知症にかかっているかどうかで、がん患者の死亡率に差が出るという海外のデータが示された。大腸がんの患者で、認知症のない人の治療開始6カ月以内の死亡率は8.5%だったのに対し、認知症のある人は33%と約4倍だった。
その発表をしたのは、国立がん研究センター東病院精神腫瘍科長の小川朝生医師。同協議会で初めて議題になった「高齢者のがん」について参考人として呼ばれ、認知症などの問題点について発言した。
小川医師は、本誌の取材にこう話す。
「認知症とがん、どちらも発症している高齢者は少なくありません。しかし、がんと認知症を両方診てくれる医療機関はほとんどないのが現状です」
がん患者が認知症を発症している場合、本人が治療法を決められるかどうか、意思決定能力があるかという問題に直面すると指摘する。また、がんと診断された時点で認知症を発症していなくても、がんの手術や薬物療法で、せん妄が発症し、認知機能が低下する可能性があること、家族の負担が増大していることも、考慮しなければならないという。
小川医師によると、海外のデータでは、手術した70歳以上の2人に1人がせん妄を起こすという報告があるという。そしてせん妄を起こすと、退院時に認知機能検査(MMSE)が3点ほど悪くなっている。せん妄を起こさない人に比べ、せん妄を起こした人は退院後2年間での死亡率が2倍になるというのだ。