錦織圭にとって自身2度目のATPツアーファイナルズ準決勝の相手は、今季6度目の対戦となる、ノバク・ジョコビッチであった。
今年行われた過去5度の対戦は、2度がATPマスターズの頂上決戦であり、1度はグランドスラムの準々決勝、そして2度がマスターズ準決勝という、いずれも大舞台での激突だ。ジョコビッチと重ねたこの対戦回数こそが、充実の今シーズンを物語る。そしてジョコビッチは戦うたびに、錦織に異なる手応えや気付きを与えてくれる存在でもあった。
1月の全豪オープンや3月のマイアミマスターズでの対戦では、相手の鉄壁の守備を崩せず「攻めていくべきか、じっくり打ち合うか」の迷いを抱えた。その後5月のマドリードとローマのマスターズ2大会では、高く弾むスピンと強打を巧みに織り交ぜ、ストローク戦で打ち勝つ手応えをつかむ。特にローマの戦いでは、マドリードでつかんだ攻略法を実践し、ファイナルセットのタイブレークにもつれこむ大接戦を演じてみせた。
そしてツアーファイナルズで迎えた、今季6度目の対戦――。その一戦で錦織は、世界1位の座を奪還すべく調子を上げてきたジョコビッチに、1‐6、1‐6のスコアで完敗した。
「今日は彼が強すぎました」。そう相手を称える潔さと、「自分がとてつもなく悪かった」という悔いの両方を抱えた、今シーズン最後の試合であった。
「とても感覚が良く、非常に集中できていた」と試合後に満足げに語るジョコビッチは、立ち上がりから試合を支配した。特にリターンの当たりが良く、錦織のサービスゲームで常にプレッシャーを掛け続けた。
対する錦織には、3時間20分を戦った3日前のアンディ・マリー戦や、深夜近くまで及んだ前日のマリン・チリッチ戦の疲労が残っていたようだ。序盤はじっくり打ち合い相手を崩しに行くが、先にミスが出る局面が多く見られた。ただ本人は、「多少なり(疲れが)作用したかなとは思いますが……」と言いつつも、それ以上に、チリッチ戦の2セット目以降、「自分から攻めず、ボールを置きにいった」精神面の影響があったと分析する。「ほぼメンタル的なところだと思います」。それが彼の想いだった。